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(ミドリニア樹海にサンシベル草原……あ、街道の名前もある)
なるほど、これは非常に便利な代物である。どういう理屈かはまったくわからないけれど。
ミツキが感心するようにマップに釘付けになっている間に、おじさんは残りのアイテムについて大まかに説明してくれる。
残りの袋の中身は冒険者の初期装備と言って差支えの無いものだった。短刀やブーツ、それにアクセサリがひとつ。アイテムはHP回復の薬草が3つに、コインが5000ほど入っていた。
「武器屋と防具屋はギルドの裏手にあるから後で行ってみるといい。道具屋は街の入り口付近にある」
ただし、ここの道具屋は品揃えが悪いからあまり期待しないようにと、おじさんは付け加える。
「支払いはそのバングルを翳せば勝手に引かれるようになっている。同様にギルドからの依頼を受ける時もバングルが必須になる。依頼達成時には個人のバングルからギルドの方に勝手に連絡がいくようになっているから報告は不要だ。ただ報酬は請け負ったギルドでしか受け取れないから注意してくれ」
(なるほど、なんでもかんでもこのバングルがやってくれるってわけね…)
おじさんの説明に、ミツキはまじまじと右手首に巻かれたバングルを見やる。
(管理されてるみたいで、ちょっと気持ち悪いけど)
まぁ仕方がないだろう。いったいどういう仕組みなのか、誰からの支給物なのか、何処で管理されている物なのか、疑問に思わないでもなかったけれど、今それを気にしてもはじまらない。
「パーティーを組みたいのならギルドの張り紙で随時募集があるから、それを参考にするといい。ソロでやるつもりならまずは手紙配達や薬草採取、落とし物捜索が無難だろうな。その手の依頼は常にそこの掲示板に貼られているから、出来そうなものがあれば俺に言ってくれ」
「それ以外の依頼は、どうやって受ければいいんですか?」
何の気なしにそう聞いたミツキだったが、おじさんはちょっと怪訝そうな表情でこちらを見る。
「あっ…、ええと、参考までに」
慌ててそう付け加えると、おじさんは「随分気の早い娘だな」ととりあえず笑ってくれた。いけないいけない、冒険者になりたての小娘の自覚が足りなかったと、ミツキは内省する。
「要人の護衛や遭難者の救出、魔獣討伐なんかはそれなりに冒険者として名が売れてる奴にしか任せられないから、掲示板に出すことはないな。その手の依頼は俺が責任をもって信頼できる冒険者に依頼をかけたり、逆に指名がかかったりする場合もあるが、少なくとも冒険者レベルがC以上にならない限り声がかかることはないだろう」
ちなみに冒険者になりたての、今のミツキのレベルはFらしい。そう聞くと、おじさんが笑うのも無理のない話に思えた。
「ざっと説明してみたが、何か質問はあるかい」
おじさんにそう聞かれ、ミツキは差しさわりのなさそうな疑問をとりあえずぶつけてみる。
「ランクを上げるには、依頼をたくさんこなせばいいんでしょうか?」
そう聞くと、おじさんは笑って答えてくれた。
「まあそうなるな。でもただ数をこなせばいいってもんでもない。依頼を受けてから達成するまでの期間が短ければ短いほど評価は上がる。依頼主によってはボーナスを出してくれることもあるだろう。良い仕事をすればした分だけ依頼主からの評価は上がるから、場合によっては専属の声がかかったり、指名を受けることもあるな」
「依頼主からの評価が高いと、冒険者レベルも上がりやすいということですか?」
「結果として依頼が増えるからそうなる、といったところかな。この仕事は信用が第一だ。信頼の無い相手に仕事は任せられないからな」
(なるほどなぁ…)
まず何はなくとも信頼を得なければならない、ということだろうか。
ミツキは早速、掲示板を見てみることにした。