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「あの、冒険者登録をしたいんですけどー…」
「ああ、ならこの用紙に必要事項を記入してね」
翌日、街の中心部にある冒険者ギルドに行くと、受付のおじさんにそう言われ一枚の紙を渡された。
用紙には名前と年齢、性別、犯罪歴の有無、出身地等の欄があり、ミツキはそれを見てうっと表情を曇らせる。
(名前と年齢、性別はいいとして、出身地かぁ…)
ミツキの知っている街の名前は、今のところふたつだけである。そのうちのひとつはこの街で、もうひとつはここより大きいと言われているカーティスだ。
自ら田舎で育ったと公言してしまった手前、カーティスと書くわけにはいかない。かと言ってこの街の名前を書くわけにも……と、ミツキが用紙を前にうんうん唸っていると、受付のおじさんが声をかけてきた。
「必須事項は名前と犯罪歴の有無だけだから、書きたくなかったら後は空欄で出しても構わないよ」
「えっ、そうなんですか?」
おじさんのアバウトな台詞にミツキは目を丸くする。するとおじさんは「いいのいいの、」と顔の前で右手を振る。
「冒険者になろうなんて輩には後ろ暗い過去がある連中も少なくない。審査なんて有って無いようなもんさ」
「そうなんですね…」
ミツキにとっては有難い限りである。遠慮なく書ける部分だけを記入して(もちろん日本語で)提出すると、おじさんは一瞥しただけですぐにそれを戸棚の奥にしまってしまう。
(あっさりしたもんだな…)
と、その様子を眺めていると、今度は目の前に大きな袋をどすんと置かれた。
「これが冒険者になるにあたって支給される物だ。ひとつずつ説明していくからきちんと覚えるように」
おじさんはそう言うと袋の中からひとつずつアイテムを取り出し、説明をはじめた。
「まずこれだな、これは冒険者なら全員が身に着けているバングルだ。基本は利き手につけて、一度つけると本人が死亡するまで外れない。これが冒険者であることの証明にもなっている」
ゴールドの細かい模様の入ったバングルを目の前に置かれて、ミツキはそれをまじまじと見つめる。一見何の変哲もない、普通のバングルのように見えるけれど…。
「そのバングルには魔力が込められているんだそうだ。詳しい理屈は俺なんかじゃわからねえがな」
おじさんはそう言うと、そのバングルをミツキに身に着けるように指示する。
(利き手…だから、右手首か)
言われた通りに利き手につける。すると、するっと右手首にフィットした。
(余裕のある造りに見えたのに)
やはり何らかの魔力が込められているせいなのだろうか、バングルはミツキの右手首に隙間なく装着されていた。
ちょっと気味の悪さを感じつつも、ミツキはおじさんの次の説明に耳を傾ける。
「次にこれだ。これは今まで自分が行った街や足を踏み入れたダンジョンなんかの場所や地名が書き込まれていくようになっている、言わば旅の必需品だな」
そう言っておじさんが取り出したのは茶色い紙切れだった。手渡され、それを覗き込むと途端に右腕にはめたバングルが輝きだした。
「わっ」
それに呼応するように目の前の無地だった紙の上に森や草原、街の形が浮かんでくる。よくよく見てみると、そこには今までミツキがいた森の名前や地名が書き込まれていた。
(マップみたいなものかな…)
これも魔法によるものなんだろうか。ミツキは目を瞬かせて、浮き上がる文字に目を走らせた。




