42
ほどなくして馬車はマティスという街に着いた。
規模としてはカーティスの4分の1、だが必要最低限の施設は揃っているとのことだった。
「次期日も暮れます。今日はここで休みましょう」
「いえ、でも私は…」
野宿でも構わないし、まだ歩ける明るさだと主張しようとして、あっさりと却下される。
「貴女は大事な恩人ですから、今日は精一杯のもてなしをさせて頂きます」
それに、とシグリットは続ける。
「ここを逃すとカーティスまでこの規模の街はありません。その魔獣と忠誠の儀を執り行うのなら、この街がベストだと思いますよ」
でなければどのみちカーティスには入れないし、冒険者登録をしたところでパーティーに入れることも出来ないでしょう。
シグリットはそう続けると、街に待機していたらしい部下っぽい人に命令し、ミツキを宿泊施設へ案内させると自身は主と共に街の奥へと消えてしまった。
(逃げて……も、仕方ないよね…)
通された部屋でベッドに腰を下ろし、ミツキは天を仰ぐ。
なんとなく、成り行きでここまで来てしまったが、これで良かったのだろうか。
(ヴェルナーとも、別れて来ちゃったし…)
そうなのだ。結局この街の規模でもヴェルナーを連れて中に入るのは難しいと言われてしまった。
「このくらい強い魔獣なら、外で待機していても問題はないでしょう」
そうシグリットに言われてしまえば、否定することも出来ない。
結局、自分より強そうな敵とは戦わないこと、アイテムは惜しみなく使うこと、あまり遠くまで行かないこと、を条件にヴェルナーとは一旦お別れしてきた。
(ヴェルナーを中に入れられるのは、儀式の準備が出来てから、か…)
当然準備には相応のコインと人手が必要となる。レベルが充分なのであれば私が手配しておきましょうかというシグリットの有難い申し出を、ミツキはとりあえず保留にしておいた。
(いや、ていうか強引に保留にさせられたんだけど…)
本当は断りたかったのだが、シグリットがそれを許してくれなかったのである。
(なんだろなぁ……やっぱり何か、怪しまれてる…?)
まぁ、普通に考えれば怪しさ満点の存在であることは否定できない。よくもまぁ主の乗ってる馬車に同乗させたなと思う程度には、ミツキだって自身の身元がこれ以上ないくらい怪しいものであるという自覚はあるのだ。
(シグリットの口ぶりだと、あと数日はこの街に滞在予定みたいだけど…)
その間、自分はどうしよう、とミツキは思う。本当はカーティスで冒険者登録をするつもりだったけれど、この街でも登録自体は可能らしい。
(なら、自分だけでも登録しちゃおうかな)
ヴェルナーのことは追々考えよう、そうしよう。と、ミツキは現実逃避をおこす。本当はヴェルナーについて考えなければならないことが山積みなのだけれど、どうにも今すぐにはその問題と向き合う気にはなれなかった。
(もし、忠誠の儀式に失敗したら)
それは当然のことであるのと同時に、ミツキを酷く打ちのめす結果になるのではないか。
そんなことになったら、もう自分はヴェルナーと共にはいられないだろう。
(罪悪感で、いっぱいだ)
自分の勝手で殺して、無理やり生き返らせて、アイテムの力で意思を縛っている。
それでいて信頼や忠義が欲しいなどと、いったいどの口が言えるだろう。
(この数日の間で、よく考えないと)
どうすることが、結果として二人にとって最善なのか。
ミツキはまたしても、選択を迫られていた。




