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(結構いいペースかも)
森を出てから三日が経過していた。
草原を出るのに丸一日、その後平坦な道が続きヴェルナーの先導の元二日間、あまり景色の変わらない風景の中をひたすらに歩き続けた。
当初の予想通り、道中モンスターはちらほら出た。が、ミツキとヴェルナーの脅威となるようなレベルの敵は現れなかった。
素早さの数値はヴェルナーの方が勝っている為、必然的に攻撃はヴェルナーが先行することが多い。その為ヴェルナーのレベルがどんどん上がっていくのを見るのは圧巻だった。
いくら格下とはいえ戦闘数が増えれば経験値も俄然増えていく。その上1ターンで撃破することによって経験値が二倍になっているらしかった。
加えて一緒に戦闘に参加しているせいか、それとも従属ステータスのせいなのか、ほぼ棒立ち状態の時でもミツキに経験値が入ってくる。勿論ヴェルナーよりは少ないが、塵も積もればでトータルで見るとかなりの量の経験値が貰えていた。
(なんか申し訳ないなー)
これでは経験値泥棒である。少しは自分の素早さも上げておくべきかと思案しつつ、そんなこんなでミツキとヴェルナーはわりかし平和な旅を続けていた。
「それにしても歩いてる人、ほんといないなー」
ミツキは相変わらず代わり映えのしない景色をぼんやりと眺めながら、そんな感想をこぼす。
時々馬車は通る。だから御者の人の姿は見かけたりするが、当然というかなんというか、こちらには目もくれず通り過ぎて行ってしまう。
馬車は荷台つきだったり箱馬車だったりと様々だったが、共通していたのはどの馬車もかなりのスピードが出ていた、というところである。
おかげで声をかける暇さえなかった。ただただ見送るばかりである。
(街の場所、聞いたりしたかったのになぁ)
とは思いつつ、そのうち歩いてる人にも会えるだろうと最初は高をくくっていた。
だがその認識は甘かった。激甘だった。森を出て三日が過ぎ四日目になろうとしている今現在に於いても、歩いている人間になんて出くわしやしないのである。
「なんでかなー…、やっぱりモンスターが出るから?」
でもこの辺に出るようなモンスターなんて、せいぜいレベル3か4、ほんとに時々レベル5程度のが出るくらいである。
きちんと武装した男の人がいれば、倒せるレベルなのではないだろうか。
それともやはり、この世界では馬車移動、もしくは魔法での移動が基本なのだろうか。
(徒歩移動なんてもはや時代遅れ的な…?)
もしそうだとしたら、この先も歩いている人間に遭遇することは難しいのだろう。
(いくらヴェルナーが優秀って言っても、限度があるだろうし)
カーティスに行きたいから西の方角に向かって!と、ざっくりとした指示しか出せていない手前、本当にこの道を進んでいていいのか時々不安に襲われるミツキであった。
先ほども猛スピードで箱馬車がミツキの横を通り過ぎて行った。
金ぴかで内装が赤っぽく、見るからに金持ちが乗っていそうな馬車であった。
(お伽噺ならお姫様が乗っていそうな佇まいだったよねー…)
でもあんなあからさまな外装じゃ、襲ってくれと言わんばかりな気がするけれど。
なんてことを考えていると、ミツキのやや前方を歩いていたヴェルナーがふと足を止めた。
そして僅かな沈黙の後、唸るような声をあげる。こういう時は大抵モンスターが現れる前兆なのだ。
気を引き締め、ミツキも周囲を警戒する。が、モンスターは一向に現れない。不思議に思いややしばらく耳を澄ませていると、遠くの方から剣戟のような音が微かに聞こえてきた。
(剣戟ってことは……人と人が戦ってる?)
冷静に考えれば、そうとは限らない。モンスターの中にも剣や斧を持っている者だっているだろう。
だがその時、ミツキは何故か直感的にそう思った。思ったのと同時に走り出していた。
(もしかしたら、さっきの馬車が襲われてるのかも)
そう考えたからである。ミツキは全速力で、馬車の向かった方角へと駆け出した。




