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とはいえ、この先何があるかわからない。目の前に希少アイテムがあるのに、それを使わない手はないだろう。
(幻視スキルを駆使すれば、アイテム欄の偽装も可能かもしれない)
万が一見られてまずいものだった場合も踏まえて、アイテム欄の方もちょっと偽装しておくことにした。
念には念を、である。
そんなこんなで、ミツキは一日一日、とても充実した時間を過ごしていた。
うっかりすると、このまま森の中で生活していけるかも…なんて気になってしまうほど、この生活スタイルは思いのほかミツキに合っていた。
純粋に、体を動かすのも頭を働かすことも楽しかった。自分で食料を調達することも、己が生きる為に他者の命を犠牲にすることさえ、ミツキにとってはどれも新鮮で鮮明で、得難い経験のように思えた。
空は病室の窓から見ていた四角ではなくどこまでも澄み渡り、陽の光は暖かくミツキの体を包み込む。
(ああ、生きてるって、感じがする)
ろくに水浴びも出来ないし、髪も洗えない。正直汚いし臭いなと我ながら思う。
けれどミツキは幸せだった。ベッドの上で思い描いていた幸福とは、きっとこういうものだったのだろうなと思うほど、ミツキは今の生活に満足していた。
(……て、満足してちゃいけないんだろうけど)
実際問題お風呂に入れないのは由々しき事態である。このままでは人として…というより女子としての尊厳が失われていくような気がする…。
と、そこでようやくミツキは自分に水魔法なるスキルがあることに思い至った。
(MPは殆ど食料調達と薬草採取で消費しちゃってたからなぁ…)
だがしかし、ここで朗報である。毎日毎日薬草採取していたおかげでレベルが着実に上がっていたせいか、ようやくMP回復の薬草をゲットできるようになったのだ。
(やったね…!たとえ回復量が微々たるものでも!)
塵も積もればなんとやら、である。今のところMP3回復のものとMP5回復のものしか採取出来ていないが、そもそものMP総量が低い為まったく気にならない。
(苗っぽいのも見つけたから、せっかくだし育ててみよう…)
いつまでこの場所にとどまるかはわからないが、一応念のため一株草原の端の方に植えてみた。
肥料とかも与えたいところだが、そんなものは持っていない為とりあえず陽当たりの良い場所に植えて様子を見てみることにする。
そしてここで水魔法の出番である。
滞在中、何度か雨は降った。おかげで命拾いしたと言ってもいい。
だが毎日森の中を彷徨えばそれなりに汚れる。汗も掻く。口も濯ぎたいし顔も洗いたい。
少し足を伸ばした先に小川を発見したが、そこまで毎日通うのは正直骨が折れた。
(水魔法で顔を洗えるくらいの水が出せるなら、それに全力で頼ってしまいたい…)
なんともしょぼい使い方である。だが実用第一。
(ヴェルナーの火炎魔法だって、ろくな使い方してないしね…)
戦闘では物理一本鎗のふたりであった。