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その日の夜から早速、ミツキは幻視スキルの鍛錬をはじめた。
鍛錬とは言っても、何もかも手探りの状態である。これが果たして正しいやり方なのかどうか甚だ疑問だが、それでも今は思いつく限りのことを実行してみるしかない。
まずミツキがしたことと言えば、偽装したいステータスを思い描くことであった。
(能力は平均値がいいんだけど、この世界の15歳女子の平均的ステータスがわからない…)
ただヴェルナーより上回るのはおかしい、くらいの認識はあった。それと森の中を跋扈する下級モンスターのステータスやレベルを加味し、ミツキの中ではレベル5くらいがちょうどいいかな、という結論に至った。
ミツキのステータスで飛び抜けておかしいのはHPと物理攻撃力、それと器用さである。
(これを他の数値よりちょい上、くらいに設定し直して…)
所持スキルから鑑定、幻視を抹消。その上で自動回復スキルとアイテム生成のレベルを大幅に下げてみた。
「うーん、こんなもんかな」
頭の中で数値を映像化し、ミツキは神経を集中させる。そして幻視スキルを発動した状態でウインドウをじっと見つめ続けた。
最初の数時間は全く変化なし。そのうち集中力が切れ、初日はなんの成果もなく就寝。
翌朝起き抜けの状態のまま数時間同じことを繰り返し、お腹が空いてきたところで一時中断。前日にアイテム化しておいた食料でお腹を満たし、明日の為の食料と薬草採取の為森の中を探索。
うっかりエンカウントしてしまったモンスターをヴェルナーと一緒に倒しつつ、レベルアップでめでたくMPも全回復。コインとアイテムを着実に増やしていった。
午後からは草原の方へ出て、反魂花を使ってのアイテム生成に精を出した。
鑑定してみてわかったことだが、どうやらこの花、摘んでから数時間内にアイテム生成しないと枯れてしまうらしい…。
その為入手が困難とされ、アイテム加工されたものには高値がつくらしい。
(その上花の色で枯れる時間も変わってくるみたい)
たくさん摘んでアイテム化しておいたものの、翌日アイテム一覧をのぞいてみると軒並み枯れていた時の衝撃ったらなかった。
検証してみた結果、紫→青→赤→桃→白の順に枯れていった。ということはおそらく紫の反魂花がいちばん希少なのだろう。
花単体を鑑定してみたところ、反魂の力を持った花、としか出てこなかった。これ単体では効果が薄いのかもしれない。
いちばん長く枯れなかった白い反魂花くらいなら、ギリギリ単体で売れないこともないのだろうか。
(ロルフも高値で売れるって言ってたし)
ただその場合、すぐに買い取ってくれる人がいる前提となるだろう。グズグズしてると枯れてしまうし、アイテム生成スキルを持った人間に渡さなければアイテム加工されずに宝の持ち腐れとなってしまう。
(…それに、よく見てみると反魂花ってこの一帯だけにしか咲いてないんだよね…)
草原に咲く草花を鑑定してみた結果、反魂の力を持っていたのは最初に花冠を作った場所、その近辺に咲く花だけだった。
(本当に偶然だったんだなぁ…)
あの時摘んだ花が、もし反魂花じゃなかったら。
ヴェルナーは生き返らなかったし、今みたいに順調に物事進んでいなかったかもしれない。
(それにこれも偶然だけど、紫と青の反魂花を使っていたんだよね)
赤と桃色と白で作った花冠と、紫と青と白で作った花冠では、どうやら効果が微妙に違っているらしかった。
両方とも復活の花冠との鑑定結果が出るものの、前者は蘇生のみで後者は蘇生と従属が選べるようになっていた。
(なんだか最初のアイテム生成で、とんでもない物を作ってしまったような気がする…)
鑑定結果を見て、ミツキはそんなことを思う。もしかしなくとも、この花冠はおいそれと気安く作っていいものではなかったのかもしれない。