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そこまで考えて、ミツキはふと思い当たる。
(…奴隷商人がいるってことは、この世界には奴隷っていう存在がいるってことだよね)
それは当たり前の理屈である。何故いまさらそんなことをと思いつつ、別の意識でミツキは考える。
(奴隷の人なら、主人の秘密は洩らさないかも)
この世界の奴隷契約がどうなっているのか、ミツキにはまだわからない。けれど、もしかしたらという予感もあった。
(もし、ヴェルナーみたいな従属関係になれるとしたら…)
それはミツキにとって、とてつもない強みになるのではないだろうか。
(私の代わりに強そうな奴隷の人をパーティーのリーダーに据えて、矢面に立ってもらえれば…)
自分の本当の能力は隠したまま、冒険者として活動することが可能なんじゃないだろうか。
そしてついでにこの世界のことを色々教えてもらったりなんかも出来るかもしれない。
(………いけるかも)
これだ、とミツキは確信する。これはロルフとの出会いがなければ浮かばなかった発想だ。
(ロルフさまさまだ…!)
今はもういないロルフに全力で感謝して、ミツキは新たな目標を定める。
(とりあえず、最優先事項は幻視スキルを習得すること)
そしてこの一帯で出来るだけのアイテムを確保してから、ここから歩いて三日かかるというカーティスという街に向かうこと。
それから可能ならロルフと再会し、奴隷売買の相場というものを知る必要がある。
(よし!そうと決まれば早速スキル確認だ)
ミツキはウインドウを出し、まずは自分のステータスを確認してみる。
(あっ、やっぱり……レベルが上がってる)
投げ斧で獣を撃退したとき耳にした電子音。もしかしたらあれがレベルの上がった音なのではないかとずっと思っていたのだ。
(前は夢中で気づかなかっただけなのか、それとも鑑定スキルをつけたせいで聞こえたのか…)
それは今のところわからないけれど、レベルが上がったことを教えてもらえるのは有難い。
「えっと、前は確か10だったから…、あ、2つも上がってる」
ミツキのレベルは12になっていた。ついでに言うとMPも4ばかり増えている。
ということは、レベルがひとつ上がるごとにMPは2つずつあがっていくのかもしれない。
(HPはカンストしてるから、これ以上増えないってわけね…)
なんとなく勿体なく感じてしまうのは、貧乏性なのだろうか。
そして自由に振り分けられる分には+10の表記がなされていた。ということはこちらもレベルがあがるごとに+5が貰える仕組みになるのだろう。
(まぁ、これくらいなら覚えられるかな…)
では早速パラメーターを振り分けてみよう。
今回は魅力に全振りしておくことにした。なんとなく幻視スキルの特性上、魅力をあげた方がいいのではないかと予想したからだ。
これでミツキの魅力は40になった。これからは魅力を重点的にあげていくことにするとして、次にミツキが確認したのは所持スキルの方である。
(お、食料調達と薬草採取がレベル3になってる)
そして逃走補助もレベル2になっていた。これは先ほど降ってくる矢から全力で逃げたせいだろう。
そして何より鑑定がレベル4になっていた。
(オートにしてたせい?それとも別に何か要因が…)
あるのだろうか、とミツキは首を傾げる。イマイチどんな基準でスキルレベルが上がっているのかがよくわからない。
(でもま、さくさく上がるのは良いことだよね)
たとえ取ってはいけないとされるスキルだとしても、一度習得したからには使わにゃ損である。




