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(要するに、どれもこれもおススメしないと言いたかったわけね)
やっぱり良い人なんだろうなぁ、とミツキは思う。ちゃんとデメリットの部分まで教えてくれるのだから、親切以外の何物でもない。
ロルフは結局、移動石の色が黒から赤に変わった段階で、目的地であるカーティスという街に移動してしまった。
別れ際、たいしたアドバイスも出来ずに申し訳ないと謝られ、逆にこちらが恐縮してしまったほどである。
(かなり、ためになる話を聞けたと思うし)
ミツキにとって、ロルフとの遭遇は幸運だったと言ってもいい。諸手を上げて喜びたい気分である。
さて、とミツキはあらためて考える。ロルフの出してくれた三つの案についてだ。
(まずメイド、ね)
これはミツキの中で早々に却下された。今の自分の常識の無さを考えると、お屋敷の中という限られた空間の中での集団生活はまず不可能であると言っていい。
(メイドさんなんて、常識がないとやってられないだろうし)
唯一住み込みで働けるという点については惹かれるものの、屋敷の中ではヴェルナーと一緒には暮らせない。
というわけでメイドは無い。次は手に職、である。
(ロルフには言っていないけれど、私にはアイテム生成のスキルが既にあるし)
それと鑑定スキルを合わせれば、かなり良い仕事が出来るのではないだろうかとミツキは踏んでいた。
ただこちらもネックとなるのは己の常識の無さである。なんの知識も情報もなしに、商売が出来るとは思えない。
(たとえアイテムが作れても、それを上手く売り捌けないようじゃね…)
商売とは信頼である。今の自分に客との信頼関係が築けるとは到底思えない。
とはいえ、後々はやはりアイテム生成を本業としたいのが本音である。
その為に必要となるのはやはり資金と人脈、それと知識だろう。
(……となると、実際問題現実的なのは)
やはりロルフの言う通り、冒険者になるのがいちばん手っ取り早いのかもしれない。
(ちょっと前までは、冒険者になるわけじゃないしーとか思ってたのになぁ…)
はぁ、とミツキはため息を吐く。なんというか、これは王道パターンに乗っている気がする。
(でもなぁ、あんまり目立ちたくはないわけで…)
冒険者を職業とするのは、あくまでこの世界の一般常識を知る為と、資金の確保、それと店を出す際の人脈づくりの為である。
冒険者として名を馳せる気はさらさらないし、悪目立ちするのも遠慮したい。
(でもあの口ぶりだと、パーティーに属さず女の子ひとりで活動するのは目をつけられやすいんだろうなぁ)
正直なところ、ミツキの物理攻撃力を考えれば、そんじょそこらの暴漢は相手にもならない。
だがそれこそが危険なのだ。ミツキはあくまで冒険者としてではなく、職人として生きていきたいのだ。下手に自分の能力値を曝すような真似はしたくなかった。
(かと言って、パーティーを組んだとしても、メンバーにステータスを隠し続けるのは難しいだろうし…)
うーん、とミツキは腕を組みつつ思案する。ミツキ的にはヴェルナーがいれば、戦力としてはそれでもう充分な気がしていた。他の誰かとパーティーを組むメリットは今のところ見当たらない。
(それこそ、自分のステータスを見ても秘密にしてくれるような人じゃないとね…)
だがしかし、そんな都合の良い人間が果たして存在するだろうか。
仮にいたとしても、そこまでの信頼関係を築くのに、いったいどれほどの時間と労力が必要となるのだろう。
(気の遠くなるような話だなぁ)
そりゃそんな人、いたらいいなと思う。もしいたなら、その人にこの世界の常識から非常識まですべて解説してもらえるのに。




