プロローグ3
「どっちって…」
ミツキは考える。お父さん、お母さん、康太の顔を思い浮かべる。
大好きな家族。きっと何度も自分を支え、愛してくれた人たち。
(でも、)
自分が長く生きられない呪いにかかっているのなら、その度にきっと彼らは苦しんだはずだ。親より先に死ぬなんて親不孝だと、生前誰かに言われた気がするけれど、まったくその通りだとミツキは思う。
(私がまた同じ世界で生まれ変わったら、同じ苦しみを味わせることになる…?)
それはとても、不幸なことなのではないだろうか。
「…………異世界に行く」
知らず、勝手に口が動いていた。
「健康な体で、人生を終えてみたいから」
そう告げると、目の前の康太の顔をしたそれは、康太らしからぬ表情でにやりと笑った。
それはとても、神様がするような類のものとは思えぬ、邪悪さに満ちた顔だったのだけれど。
それでも、ミツキは決めた。自分の意志で、次の人生の選択をした。
何より、ミツキは経験してみたかったのだ。健康な体で、健やかな精神で、当たり前のように日々の生活を営んでみたかった。
生前、ミツキが心から願ったのは、そんなささいなことでしかなかったのだ。そして、目の前のそれは、きっとそのことを知っていたに違いない。その証拠に、待ってましたとばかりに手が差し伸べられる。
反射的に差し出されたその手を掴むとその瞬間、ぐにゃりと視界が歪みだした。目の前の康太の姿をしたそれも、自分の体や手足でさえも、何もかもが元の形を保てず、ただならぬ様相を呈していた。
瞬間的に感じたのは恐怖────そして、激しい後悔。
やはり、こんな胡散臭い話を鵜呑みにしてはいけなかったと、ミツキの理性ががなり立てる。
けれどもう、時は戻せない。一度発してしまった言葉は覆せない。
そんなミツキの後悔とは裏腹に、どこか楽し気な声音が耳元を掠めていく。
それは聞きなれた康太の声のようでいて、まったく別の、まるでそれは悪魔からの宣告かのように────ミツキには聞こえた。
「契約は成立した。では次こそ、望み通りの人生を」