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なるほど、とミツキは思う。確かに鑑定スキルを発動させた状態で物を見ると、直接見ているようでも紗がかかったような状態になっている気がする、とあらためて気づく。
その上で、得られた情報を認識していくのだ。確かに対象物を見ているようで見ていないような視線の動きになってしまうのかもしれない。
(気をつけないと)
鑑定持ちだということが知れると、どうやらステータスを覗かれてしまうらしい。そんなことになれば、自分の異常な数値がバレてしまう。
(なんとなく、バレちゃいけないような気がするんだよね)
高すぎる能力は、禍根を残しやすい。そのくらいのことは、ミツキにだってわかるのだ。
「その様子じゃお仲間ってわけでもなさそうだな」
男はミツキの態度で色々察してくれたらしい。ひとりで勝手に何かを納得したかのような顔つきになって、うんうんと頷いている。
(奴隷商人か…)
なんとも物騒な職業である。が、目の前のこの男からは、それほど悪い印象は受けない。
職業と人となりは、まぁ一致しないものかもしれない。そう思うことにして、ミツキは少しばかり質問をしてみることにした。
「奴隷商のお仕事中だったんですか?」
なるべく話題を自分から相手の方にシフトしたかった。だから敢えて相手の答えやすそうな話題を振ってみる。
すると案の定、男は「ああ、そうだ」と乗ってきた。この調子でこの世界の職業云々まで話が広がらないかなぁと期待するミツキであった。
「今日は大事な商品の受け渡し日だったっていうのに、えらい目にあったぜ。せめて奴隷連中は無事に目的地に着いてくれてるといいんだけどよ」
「ひとりだけ弾かれてしまった…ってことですか」
「どうやらそうみたいだな。粗悪品を掴まされるとたまにあるんだよ。やっぱりケチって安い石を買うもんじゃないな」
「ケチって…」
そういえば、さっきこの男は自分のことを指して「違法道具屋の娘」と言っていた。
(ということは、正規品を扱うお店と、そうじゃないお店があるってことかな)
そしてそこには、恐らく鑑定スキルを持つ人間が常駐しているのだろう。鑑定スキルを使っていいのはそういった限られた人種だけなのかもしれない。
「本当はどこに行くはずだったんですか?」
聞いたところでわかるはずもないが、一応質問してみる。すると男は「カーティスだ」と答えた。
「カーティス…」
「ここから歩いて行けば、三日はかかるな。けどそれじゃあ商談には間に合わねえし」
しょうがないから予備の移動石を使って行くことにするよ、と男は言った。これも同じ店で買ったもんだからどこまで信用していいかわからねえけど、とポケットから黒い小石を取り出してみせる。
(これが移動石?)
鑑定してみたい衝動に駆られたが、そこはぐっと堪える。男の機嫌を損ねるような真似は極力避けたかった。
(鑑定オート、外しておこう)
どうやら声に出さずとも、心の内で思うだけで操作は可能らしい。ミツキはそこで意識的に鑑定スキルを外し、あらためて男の手の中の黒い石を見つめた。
何の変哲もない黒い石だ。これをどうやって使えば移動が可能になるのだろう。
(ていうか、どうやって生成するのかな…)
可能であるなら、自分で作ってみたい。自分の器用さとスキルレベルの高さなら、きっとそこそこ良いものが作れるのではないだろうか。