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「あっ、あの…」
とりあえず、謝ってみようか。そう思っていたところで、男が「ああ、いいよ、いいよ」と片手をあげた。
「キミは言わば命の恩人だし、薬草もこんなに分けてもらった。他言はしないから安心していい」
「あ、ありがとう、ございます…」
男の口ぶりに、やはり鑑定スキルには何かいわくがあるらしいことが伺える。
(オートにしてたから、ついそのまま鑑定しちゃったけど…)
我ながら迂闊だったと、ミツキは内省する。やはり自分はまだ、この世界の人間と接するには早すぎたのかもしれない。
落ち込む様子を見せるミツキに、男は空気を察したかのように殊更明るい声を出す。
もしかするとなかなか人の好い男なのかもしれないなと、ミツキはこっそりとそう思った。
「まぁなんだ、……ちょっと特殊な商売でもしてない限り、早々気づかれることはないだろうさ。ただ気を付けるに越したことはない。幻視スキルは持っていないんだろう?捕まってステータス覗かれちまえば一発でバレちまう」
殊勝な態度で話を聞いていると、男は気をよくしたのかミツキの知らない情報をべらべらと喋り出した。好都合とばかりに、ミツキは俯きがちに相槌を返す。
「でもこれで合点がいったぜ、キミみたいな子をこんなところに使いに寄こすなんておかしいと思ったんだ。鑑定持ちなら反魂花の判別も可能だもんな」
あれは高値で売れるからなあ、と男は唸るような声をあげる。
反魂花、という言葉にミツキはちらりと視線を落とす。
(もしかして、この小花のことかな…)
反魂とは死者の魂を呼び戻すことだ。つまりは死者の復活、黄泉がえりを意味している。
(貴重なアイテムだったんだ…)
特に鑑定を使って判別したわけではなかったが、偶然が功を奏したと言っていいだろう。反魂花を使って花冠を作ったことで、ミツキはかなりレア度の高いアイテムを生成したことになる。
(後で、ちゃんと鑑定しておこう)
幾つかストックしてある花冠の鑑定がまだだったことに、ミツキは今更気づく。
反魂花が高値で売れるというのなら、花冠の価値とはいったいどれほどのものだろう。
ちょっとワクワクしてきたところで、再び男の問いかけに意識が引き戻される。いけない、今はしっかりと、男の話を聞いておかなければ。
「大方違法道具屋の娘かなんかだろう。それとも同業者?」
「同業……ですか?」
はて、とミツキは首を傾げる。ミツキには男の職業がいまいちピンときていなかった。
「なんだ、鑑定で見たんじゃないのか」
「はい、私が見たのは装備の方だけで…」
それだけでも充分いけないことだったのだろうけれど、とミツキは思う。というかミツキの鑑定レベルでは、まだ職業云々までは見えていなかった。
(ていうか、職業とかもわかっちゃうんだ)
そう考えると、鑑定スキルというのは恐ろしいスキルである。
個人情報ダダ漏れもいいところだ。そりゃ取っちゃいけないと言われるのも無理はない。
「ま、隠すほどのことでもないから言っちまうが……奴隷商をやってる。職業柄、鑑定持ちの奴との付き合いは多くてね」
奴ら、目線がちょっとズレるんだよなぁと男はつぶやく。
「ズレる?」
「そ、目が合わないって言うの?上手く誤魔化してても、何かの拍子につい出ちまうんだな」
キミもさっき、そういう目で俺のこと見てたから、と男は言う。だから気づいたのだと。




