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「ああ、もしかして移動石を持たされてない?」
男はそう言うと、困ったなと言わんばかりの表情になる。
「あいにく俺も持ち合わせがなくてな。予備で持っているのは下級の、それも一人用のものだけなんだ」
まあそれも、あと数時間は使えない仕様になっているがな、と男はため息を吐く。
(移動石、か)
男の口ぶりから察するに、移動魔法をアイテム化した石か何かがあるのだろう。移動魔法とは、まぁ一種のテレポートのようなものかもしれない。
(アイテム化するにも、やっぱり色々あるんだろうな)
粗悪品を掴まされた、と言っていたっけ、とミツキは男の言葉を思い出す。
生成する人間の腕次第でアイテムの質も変わってくるのかもしれない。
(うーん、勉強になるなぁ)
出来ることなら、もっと話が聞きたい。が、あまりつっこんだことを聞くとこちらの無知がバレてしまう。さじ加減の難しいところである。
「私のことはお気遣いなく。それより、やっぱりその傷の手当てをしませんか?薬草も、少しなら分けてあげられますから」
とりあえず、見ているだけで痛々しい男の両脛の惨状をどうにかしたかった。ミツキはそう提案すると、恐縮する男を連れて草原の方へと歩き出す。
さすがにヴェルナーの巣へ男を連れ込むわけにもいかなかったからだ。
(そういえば、さっきからヴェルナーの姿が…)
見えないな、とふと気づく。が、気配だけは不思議と近くに感じられた。
恐らくはこちらから視認できない位置から、ついてきてはくれているのだろう。
(確かにヴェルナーを連れていたら、説明が難しかったかも)
ナイス判断である。やっぱりヴェルナーは頭がいいなと、あらためて思う。
(主人の不利益になるようなことは、基本的に出来ないだけかもしれないけれど)
それでも助かることは助かっているのだ。そこで卑屈になる必要はない。
罪悪感は、少しだけ感じるけれど。
「こんなに分けてもらって、本当にいいのか?」
草原の草むらに座り込み、男はミツキの出した薬草の束を見て目を見張らせる。
「ええと、…困ったときは、お互い様ですから!」
正直、こんなに、と言われてもミツキにはちょうどいい量がわからない。だから先ほど採取した薬草のうち、種類の異なる3つをひとつずつ渡しただけだったりする。
…のだが、男は何やら感動している様子である。これは渡す量を間違えたかな…と心中で考えていると、男は薬草のうちのひとつを手に取って、脛の傷口に押し当てた。
すると、ポッと光が灯ると同時に傷口が塞がっていくのが視認出来た。なるほど、そうやって使うのか…と内心感心しきりのミツキであった。
だがそんなことはおくびにも出さずに、男の傍にしゃがみ込む。何気なく男の装備を鑑定を使ってひとつずつ確認していると、ふと男がじっとこちらを見ていることに気が付いた。
「えっと、何か?」
「……もしかしてキミ、鑑定持ちかい?」
「えっ」
ミツキはびっくりして、思わず頓狂な声を上げてしまう。
(か、鑑定って、もしかして取っちゃいけないスキルだった?)
早速迂闊なことをしてしまっただろうか。内心慌てるミツキをよそに、男は静かに、そんなミツキの様子をつぶさに見つめていた。




