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つつ、と視線を上の方へと移動させる。
性別マークの隣にある+50の数字。これはもしかしなくともレベルアップ時にもらえる能力値アップの数字だろうか。
(パラメーターを自由に操作できるってことかな)
つまり自分の上げたい能力に全振りすることだって出来るわけだ。これはかなり慎重な選択が迫られる。
(これから先、どうやって生きていくかの指針にもなり得るか)
うーん、とミツキは考える。どれから先、どうやって生きていくか───かぁ。
(このステータスを見るに、もう私の願望は殆ど叶ってると言っても過言じゃない)
健康な体で、健全な生活をする。その為の健康的な肉体をミツキは既に手にしていた。
このHPの多さと自動回復スキルがあれば、恐らく滅多な攻撃では死なないだろう。ヴェルナーに攻撃を受けた時のことを考えれば、確かに痛覚はあった。それは物理防御力が極端に低いせいかもしれないが、すぐにその痛みも消えてなくなった。
(痛みでショック死、とかあるのかなぁ…)
その可能性は否定できないが、まぁ限りなく低いだろうと思う。同様の理由で失血死もおそらくない。
(と、なると…)
次にミツキが望むのは、安定した生活である。
縁も所縁もない場所で、たったひとりで生きていかなければならないのだ。先立つものはやはりお金…ということになるだろう。
幸い器用さの数値が桁外れだ。アイテム生成のスキルもMAXである。ならばアイテムを作って売りさばく、というのが現実的かつ常識的な選択だろう。
もうひとつ、桁外れに高い物理攻撃力についてはとりあえずミツキは考えないことにした。なにも自分は冒険者や勇者を目指すわけではないのだから、こんな極端な能力値は求めていない。
(ま、護身には役立つだろうけど…)
ただの護身用にしては数値が高すぎる。あまり人にバレたくないな、とミツキは思う。人を傷つけたり殺してしまいかねない強大な力を自分が保有しているなんて、ぞっとしない。
(普通に、慎ましく、生きていきたい)
そう、普通がいいのだ。普通に友達をつくって、知り合いを増やして、普通に穏やかに暮らしていきたい。
そうやって少しずつ、この世界に溶け込んでいきたいのだ。
(その為には……どの能力を上げるべき、かな?)
再びミツキは視線を下げる。
普通に考えれば防御力を上げるべきだろう。いくら死ぬ可能性が低いとはいっても、痛いのは嫌だ。
(でも私、痛みには耐性があるんだよね)
そして、そういう感覚を忘れたくないな、という気持ちも少なからずあった。もし防御力を上げることで痛みに鈍感になってしまったら、前の世界で痛みに耐えていた頃の自分も一緒に忘れてしまうような気がしていた。
(戒めじゃないけど、忘れずにいたい)
人はどんなことにもすぐに慣れてしまうから。それがわかっているからこそ、痛みや苦しみと無縁の存在にはなってしまいたくなかった。
(と、なると…)
素早さ、運、魅力、に絞られるだろうか。
うーん、と再びミツキは考え込んだ。