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「ね、ヴェルナー、噛んで」
ふるふる
「お願いだから、ここ、ちょっと噛んでみてよ」
ふるふる
「もー、なんで噛んでくれないの!?」
ミツキはヴェルナーの頭を掴んで、強引に自分と向き合わせる。
他のことならなんでも言うことを聞いてくれたのに、何故か今回に限ってヴェルナーはミツキの言うことを聞いてくれなかった。
「お願い、ヴェルナー!何も全力で噛みつけって言ってるわけじゃないの、ただちょっと、確かめたいことがあってね?」
ふるふる
「……どうしても、ダメなの…?」
ミツキの言うことに、頑なに首を横に振るヴェルナー。こんな態度をとられるなんて、思ってもみなかった。
(そりゃ自分でも、どうかなって思う提案だけど…)
でも今のところ、思いつく案はこれくらいしかないのである。
ヴェルナーのスキル一覧には噛みつきというスキルがあった。これはおそらく、ヴェルナーが自分に最初に攻撃したスキルだろうとミツキは踏んでいた。
(物理攻撃系のスキルって、MPよりHPを消費することが多いよね)
仮にMP消費だったとしても、スキルを発動せずただ噛んでくれればそれでいいのだ。所謂通常攻撃の範囲でミツキはヴェルナーから攻撃を受けることを望んでいた。
(敵を倒さなくても、ただ攻撃するだけで、経験値をもらえる可能性があるかもしれない)
そうミツキは考えたのだ。それにもうひとつ、確認しておきたいこともあった。それはヴェルナーから受けた攻撃によって出来た傷が、あっという間に消えてしまった件について、である。
もしあの現象が、今も有効なのだとしたら。
(私はいくら攻撃されても、自動回復するようなスキルを所有しているってことにならないかな)
それってどんなチート?って感じである。だがこれについては、ちょっとした確信があった。
(別の呪い、かぁ…)
弟と同じ顔をした、あの存在の言った言葉。
今にして思えば、健康な体と引き換えに、なんらかの呪いを受ける可能性を示唆していたようにも受け取れる。
「どんな攻撃を受けても、それをすぐに治癒出来る能力、ねぇ」
それって最強なんじゃないかと、ミツキは思う。けれど、と同時にこうも思う。
「それってもしかして、どんな攻撃を受けても死ねないってことになるんじゃ…」
一瞬、そんな考えが脳裏をよぎる。けれどすぐに頭を振って、その考えを打ち消した。
(いや、まさかね。だって、いくら異世界って言ったって不死のスキルなんてそうないだろうし…、それに攻撃で死なないからって他のことが原因で死ぬことだって充分にあるはずだよね?)
それこそ凍死とか、餓死とか、病死とか、色々ありそうなものである。
(考えすぎ、考えすぎ…)
少しだけ嫌な予感にとらわれそうになり、ミツキは意識を切り替えるようにヴェルナーと見つめ合う。
「……もしかして、従属のステータスが邪魔してるのかな」
今の関係は、言うなれば自分が主人でヴェルナーが仕える立場だ。従属というステータスが何を意味するのか正確にはわからないが、もしかすると何らかの制約が存在しているのかもしれない。
「例えば、主人を攻撃できない…とか?」
思いつきでそう口にしてみる。すると、それまでただ首を横に振るばかりだったヴェルナーが、勢いよく吠えた。
あっ、これはもしかしなくても、肯定の意だろうか…。
ミツキはがっくりとうなだれた。
こうなってはもう、意を決して自分のステータスを確認するしかない。
意識的に後回しにしていたのだけれど、もうそんなことを言っている場合ではない。ヴェルナーのMPを回復出来ないのだから、この先は自分の能力と向き合わざるを得ないだろう。
「えっと…、私のステータス一覧、開示」
適当なことを口走ってみる。と、すんなり自分の正面に透明のウインドウがあらわれた。
最初っからこうすれば良かったんだよなぁ、とちょっとだけ後悔しつつもドキドキする。どうしよう、ろくでもないステータスだったら…、と不安に駆られながらも、ミツキは自分のステータスをようやくしっかり、確認することにした。