12
ミツキの心配をよそに、ヴェルナーは森の中に入るとほどなくして足を止めた。
「ここって…」
よくよく見れば、そこはミツキとヴェルナーが最初に遭遇した辺りだった。どうやら元々、この辺りがヴェルナーの縄張りだったようだ。
(…もしかして、縄張りを荒らされたと思われたのかな)
最初に問答無用で襲われたのは、そういう理由もあったかもしれない、とミツキは思う。知らなかったこととはいえ、不用意なことをしてしまったなと今更ながらにミツキは反省した。
「ん?こっち?」
ヴェルナーに鼻先でお尻を押され、ミツキは進行方向を変える。すると視線の先、ちょうどよい大きさの洞窟が見えた。
「おおーっ!」
これは良い感じかもしれない!とミツキは洞窟の方へと足を伸ばす。途中足の長い蜘蛛やら見たこともない生物がいたが、敢えて気づかないふりをした。いちいち悲鳴をあげていては、こんなところで野宿などできないだろう。
「中、結構広い…」
洞窟の奥を覗き込むと、暗くはあるがうっすらと中の様子が伺えた。
枯れ葉の塊と、何かの骨のようなものが落ちている。もしかするとここはヴェルナーのねぐらなのかもしれない。
「ここって、ヴェルナーの住んでるところ?」
そう問いかけると、ヴェルナーは頷くように短く吠えた。ならば、ここほど安全な場所もないだろう。
(よかった、ここなら私でも、なんとか過ごせそう)
ぱっと見それほど不衛生な感じもない。虫も外に比べれば随分と少ない。殆どいないといった方が正しいかもしれない。
(ヴェルナーのおかげ…かな?)
もともとここをねぐらにしていたのなら、あり得る話だ。
(今夜…というか、しばらくは、ここを拠点に生活しよう)
ミツキはそう考え、洞窟の中で腰を下ろす。
外はまだ明るいけれど、ホッとしたら急に睡魔が襲ってきた。
「ヴェルナー、ごめん……ちょっとだけ寝るね」
何かあったら起こして、と告げて、ミツキは目を閉じる。
睡魔はあっという間にミツキの意識を絡めとり、次の刹那にはもう規則正しい寝息が洞窟の中に響いていた。
次に目を覚ました時、あたりはすっかり暗くなっていた。
「しまった…寝すぎた!」
と、瞬間的に焦ったものの、時計なんて勿論持っていないので、正確な時刻など当然わからない。
「今、何時くらいなんだろ…」
あまりに洞窟内が暗すぎて、よくわからない。こういう時、懐中電灯でもあれば便利なのに。
ミツキは手探りでヴェルナーを探す。するとすぐにヴェルナーの方からすり寄ってきてくれた。うう、あったかい。人肌ならぬ獣肌。
「陽が落ちるとさすがにちょっと冷えるかも……初期装備にしても、もう少しなんとかならなかったのかな…」
ワンピース一枚じゃ、さすがに寒い。元の世界の自分だったら、きっと一瞬で風邪をひいていただろう。
(そしてその風邪をこじらせて肺炎になるまでがデフォよね…)
うん、健康ってやはり素晴らしい。くしゃみひとつくらいで済んでいる、この状況にすら感謝してしまいそうだ。