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「……よしっ」
ミツキはすうっ、と息を吸い込むと、ウインドウに向かって声をあげた。
「薬草採取、習得!」
すると薄い文字が瞬時に明滅状態へと変わる。と同時に、またあの無機質な声がどこからか聞こえてきた。
“薬草採取 習得にスキルポイント100が消費されます。 習得されますか”
生理的な嫌悪感を覚えながらも、ミツキは「はい」と返事をする。すると明滅は止まり、薬草採取の部分が濃い色の文字へと変化する。
“薬草採取 習得しました”
そして、その声はスッと止んだ。
「……ふう、」
ミツキはため息を吐く。どうもあの声は苦手だ。聞いているだけで背筋がぞわぞわする。
たとえるなら、アルミホイルを誤って噛んでしまった時のような感じ、……とでも言うのだろうか。どうにも聞いていて気分の良くなるものではなかった。
(これからスキル習得の度に聞かなきゃいけないのかな…、ちょっと憂鬱)
とはいえ、これで無事にスキルが習得できた。早速だがヴェルナーに薬草を採ってきてもらおう。
(HPも満タンだし、疲れてる様子もないし…まだ大丈夫だよね?)
ごはん(…という名の獣の死骸)を食べたばかりのヴェルナーは、まだまだいたって元気そうである。その様子を確認してから、ミツキは再びヴェルナーに探索をお願いした。
「ヴェルナー、薬草採ってきてくれるかな?できれば…MP回復とか出来るのがいいなぁ」
ダメもとで、そう付け足してみる。するとヴェルナーはわふっ、と元気よく返事をした後、また森の方へと駆け出して行った。
(うう、頼りになる…!こき使ってごめんね!!)
走り去るその姿を見送って、ミツキはさて、とあらためて先ほど作っておいた花冠へと視線を落とす。
とりあえず出来たのは3つ。内2つは最初に作ったものと同じ配色。もう1つは赤と桃色、白の組み合わせで作ってみた。
(アイテムって概念があるなら、アイテムで魔法の代用も出来るはず)
偶然ではあったけれど、この草原に咲いている花には特別な力があるのではないか、とミツキは考えていた。それらをアイテム化することで、死者を蘇らせる魔法が使えたのではないだろうか、と。
もしそうだとするなら、これはすごいアイテムである。きっと町なんかへ行けば高値で売れたりなんかするかもしれない。
(それに、万が一またヴェルナーが危険な状態になった時、助けてあげられるし)
今ヴェルナーがこんなにも懐いてくれているのは、従属というステータスのせいかもしれない。そうとわかってはいても、ミツキはヴェルナーにもう二度と死んでほしくなかった。
(まぁ実際は、死んでからの復活、っていうことになるんだろうけど…)
このアイテムを使うということは、そういうことである。矛盾しているなと自嘲しつつ、再びミツキは花冠の作成に取り掛かる。
今は出来るだけ、たくさんのアイテムを作っておきたい。
自衛の為にも、そして、───今後の金策の為にも、だ。