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「えーっと、なになに…」
ずらっと目の前にあらわれた文字の羅列を、注意深く見ていく。
スキル習得済みのものはハッキリと濃く、未習得のものは色が薄くなっていた。時々空欄があるのは、恐らく現時点で入手不可能なスキルか、何らかの条件が必要とされる類のものだろう。
(そういうのはとりあえず、置いておくとして…)
まずは現時点で使えそう、尚且つ習得に時間がかからなそうなスキルを確認しておくのが先決である。
ミツキは薄い文字列を端から順番に確認していくことにした。
(うーん、なんだか攻撃的なのが多いなぁ)
ヴェルナーの特性上しょうがないのかもしれないが、習得可能なスキルは物理攻撃に特化していた。
魔法攻撃の方は炎系が主で、他は習得しようと思えばできなくもないが火炎魔法を習得する倍のスキルポイントが要求されていた。やはり向き不向きというものがあるのだろう。
(得意なものは少量であがるけど、不得意なものは大量に必要ってわけか…)
まぁ確かに、元の世界でだってそういうものである。得意なものは早く上手になるし、不得手なものには時間がかかる。個体差というのはどうしたってあるだろう。
パッと見たところ魔獣であるヴェルナーの得意とするのは物理攻撃、火炎魔法、それから素早さを使った攻撃だろうか。
(それから、毒系かな?)
こちらに関しては既に習得済みである。最もレベル的にはそれほど高くないようだが。
「うーん、どれも決め手に欠けるなぁ」
確かにこの先、どんな状況に陥るかわかったものではない。ヴェルナーが強くなればなるほど、ふたりの身の安全は保障されるのかもしれない。
(それは、わかってるんだけど…)
欲を言えば、ミツキはもっと、実用的なスキルを欲していた。そう、たとえるならば、先ほど使った食料調達的な…ものである。
(MP自動回復みたいなのがあれば、なおいいんだけどな…)
どうやら回復系はとんと持っていないらしい。仕方がないとあきらめて、ミツキは濃く表示されている食料調達の前後を見てみることにした。
「ん、これって…」
なんだろう、とミツキは思う。それは食料調達のふたつ下あたりにあった。
「薬草採取、かぁ」
これはいいかもしれない、とミツキは思う。薬草なら、それでMPが回復出来るかもしれないし。
「必要なスキルポイントは…100!?」
ということは、これを習得してしまったら、他のスキルは当分入手できなくなってしまうということになる。
(どっ、どうしよう…!)
これは慎重に決めなければならない。だいたい次のレベルまで後どのくらいの経験値が必要なのかがわからないのだ。それにレベルアップ時にもらえるスキルポイントがいったいいくつなのかもまだわかっていない。
こんな状況でおいそれと全スキルポイントを消費してしまうのは、いくらなんでも無謀というものだろう。
「とはいえ…」
さしあたって、ミツキはヴェルナーに戦闘をさせる気はなかった。経験値と言っても、なにも戦闘だけで手に入るとは限らないだろう。
(もしかしたら、食料調達とか補助系スキルだけでもじわじわ経験値がたまっていくのかもしれないし)
それを確かめるには、やはりMP回復が最優先事項である。
一度ヴェルナーを死なせてしまった手前、どうしてもミツキはヴェルナーの安全を第一に考えたかったのだ。