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頼れる存在がいないというのは、とても不安なことである。
(けど、自分で決めたことだもんね)
どんなに心細かろうが、不安だろうが、泣き言を言っていても誰も助けてはくれない。
(それに、心細さなら、病気で寝ている時に嫌ってほど味わったし)
そうだ、とミツキは思う。あの時はただ寝ていることしか出来なかった。与えられる薬を飲んで、副作用に苦しんで、面会時間を終えるとシンと静まり返る病室でたったひとり、押し寄せる孤独と戦う毎日。
そんな日々にまた戻りたいかと問われたなら、やはりミツキはノーと答えるだろう。思う様に動かない体を抱えながら生きていく苦痛は耐え難い。ならば少しの心細さくらいなんだというのだ。
(自由に体が動かせる…!今はこれだけで、充分だ!)
ミツキはそう己を叱咤し、そうだ、と意識を別の方向へと切り替える。
(もう一度、新しい花冠を作ってみよう)
さっき作った花冠は、ヴェルナーの復活とともに千切れてしまっていた。
(また作ってみれば、何かわかることもあるかもしれない)
ミツキはそう考えて、視線を可憐に咲き誇る小花へと向ける。
まずは先ほどと同じ配色のものを作ってみることにしようと、ミツキはそっと野ばらに似た白い花に手を伸ばした。
3つ目の花冠を作り終えたところで、ヴェルナーが戻ってきた。
口には何かをくわえている。ドキドキしながら「おかえりー!」と帰ってきたヴェルナーの首に抱きつき、口にくわえているものを見て、ミツキは絶句した。
「ひっ…!」
ヴェルナーがくわえていたのは血まみれのウサギ…らしきものだった。らしき、と付け加えたのは、おそらくはこれも魔獣の類であろうと判断したからである。(だって見るからに変な色してるし…)
ほめて、と言わんばかりに頭を擦りつけてくるヴェルナーは可愛いけれど、素直にほめてあげられない。うん、でもこれ、ヴェルナーは悪くないよね、こうなるって予想できなかった私が悪いのです…。
それでもわざわざ狩りをしてきてくれたヴェルナーをほめないわけにはいかない。
「ありがとね!」と鬣をわしゃわしゃしてやると、ヴェルナーは気持ちよさそうに目を細める。うん、可愛いから、もうこれでいいや…。
「これはヴェルナーが食べていいからね」
ミツキはそう言って、くわえていたウサギらしき魔獣をあらためてヴェルナーの前に置く。するといいの?と言わんばかりにヴェルナーが首を傾げた。
「うん、いいの。お腹減ってない?あ、これとは別に何かあるなら、そっちは喜んで私が頂いちゃうけど───」
なーんて、そんなわけないよね、と続けようとしたところで、パッとまたヴェルナーの横にウインドウが現れた。ぎょっとして目を凝らして見てみると、先ほどとは違う画面がそこには表示されていた。
「ア、アイテム一覧…」
おおう、とミツキは思う。これは盲点だった。
もしかしなくとも、ここに表示されているものは、全部取り出し可能なのだろうか…?
ミツキは思い切って、そこに書かれていたものを読み上げる。
すると、ポン、と目の前に白い煙とともにそれらが顕現した。
「や、やった…!」
やはりヴェルナーはできる子だった!そこには魔獣の死骸とともに、ミツキにも食べられそうな果実の山ができあがっていたのであった。