プロローグ1
(世の中って、不公平だ)
朦朧とする意識の中で、鷺島ミツキはそんなことを思う。
それは、物心ついた時から常に考えていたことではあった。だからそんなことを今更、今の際に改めて主張するのはなんとも馬鹿らしくも思えたが、それでもミツキはそう考えることを止められなかった。
(私の人生、短すぎ)
忙しなく行きかう白衣の人たち、部屋の隅で顔を覆って俯く家族。
親不孝してごめんなさい、とミツキは思う。でもこれでよかったのかもしれない、とも同時に思う。
(どうせ、治る見込みのない状態だったんだもん、とっとと死んだほうが、みんなの為なのかもしれない)
そうすれば、お母さんは毎日病室に通う必要もなくなるし、その分の時間を弟の康太の為に使うことだってできる。
お父さんだって、高い治療費を稼ぐ為に、毎日夜遅くまで働く必要もなくなるのかもしれない。
(あぁ、そっか。これで、良かったのか)
幸いなことに、弟の康太は健康体だ。ちょっと元気がありあまっていて怪我ばかりしているけれど、素直で明るい良い子に育っていると思う。きっと、自分がいなくなったとしても、康太がいれば鷺島家は大丈夫だ。
(そっか、……大丈夫なんだ)
そう安堵した瞬間、急に意識が遠のいた。
自分の名前を大声で呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、それに答えることも身じろぎひとつ返すことさえ出来ない。ああ、これもう、ダメな奴かもしれないな、とミツキは思う。
(次に生まれ変われるなら、今度は健康な体にしてね、神様)
なんて、信じてもいない神様に向かってそうお願いしたところで、ミツキの意識はぷっつりと途絶えた。
鷺島ミツキ、享年15歳。それはよく晴れた冬の日の朝のことだった。