幕間 「最大幸福」
夕日が差し込む部屋の中、黒髪の少女が小さな椅子に腰掛けていた。
彼女の目は、ただ真っ直ぐに沈みゆく夕日へと向けられている。
「この世界はかつて人間によって作られ、そして今は異星人によって再構築されつつある。そんな作られた社会には、必ず”社会に適応できない生き物”が存在している。そして社会は、そんな適応できない生物を排除しようとはしない。それこそが不完全で完全な世界なのだから」
不意に、ドアがノックされる。
少女が何も答えないままでいると、ドアは優しく開き、やがて一人の女性が入ってきた。
「……時間です。お嬢様」
短い金髪に夕日を反射しながら、妙齢の女性は口を開いた。
「ねぇ、ノエルは、この社会における最大幸福って、考えたことある?」
少女は、まるで気にしていない様子で、振り返ることもなくノエルと呼ばれた女性へと問いかける。
「いえ。私の幸せはお嬢様が幸せでいらっしゃれば、それでいいのです」
「……そ。わかったわ。ありがとう、ノエル。」
ノエルが少女へと手を差し伸べる。少女は、その手を掴むと、優雅に椅子から降り立った。そのままノエルに先導され、部屋から出ていく。
その表情には、小さく笑みが浮かんでいた。
「重要なのは最大多数の最大幸福であり、全ての生き物の幸福ではない。完全な社会は、不完全な部分を残してこそ、完全に成り得る」
少女の呟きは、誰にも聞こえず、沈んでいく夕日とともに、闇の中へと葬り去られた。
※追記
今日の用語解説はお休みです!
次回は本編「05話 小さな反抗」を9月30日に更新致します!
よろしくお願いします~




