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04話 ジジ=ザウエル

 けたたましく鳴る目覚まし時計を「ちょいやっ!」という掛け声とともに止めると、緑髪の少女ジジ・ザウエルは、ベットから勢いよく立ち上がった。

大きく伸びをしながら、いまいち開いてくれない目をコシコシと擦る。



「ふぁぁ……おはよ、くまたろ……」


 昨夜一緒に布団に入ったお気に入りのぬいぐるみに挨拶をすると、ムラサキ色のクマであるくまたろうはジジによってベットの隅っこへ逆さ向きで押し込められていた。


「あぁっ!!くまたろ!ひどい!誰がこんなことを!!………私だ!!」


 図らずも、ベットの隅で一晩中倒立させられていたくまたろうを救出すると、ジジは謝罪の気持ちを込めて熱い抱擁をする。

 傍から見たら、奇想天外な色をしたクマの人形を、涙目で強く抱きしめている女子高生である。いくら”花も恥じらう乙女”といったところで、この姿を見たら恥じらうのは花ではなく、そしてジジ自身でもなく、彼女の両親だろう。


「ジジ!ごーはーんー!早く顔洗って降りてきなさい!」


 朝から一人ではしゃいでいると、階下のダイニングから、ジジの母親、リオ・ザウエルの声が飛んでくる。

 その声で我に帰ったジジは、横へ上へと縦横無尽に跳ね上がった髪を、手で梳かしながら階段をトタトタと降りていった。


「あんたはまたギリギリまで寝て……遅刻しても知らないよ?」


 母はまだ右側の髪がはねている娘を、呆れ顔で見下ろしていた。


「ほめんなはい!へも、はふはんへるほとは、おははにいいんはっへ!へれ……テレビでやってたよ!」

「なにがテレビでやってたのか、私には見当もつかないね」


 ジジの口の中には、ジャムをたっぷりと塗ったパンが詰め込まれている。

「朝ごはんはたくさん食べる!お昼も夜もたくさん食べるけど!」これがジジの元気の秘訣らしい。


「着替えはそこ置いといたから、ちゃんと化粧していくんだよ?年頃なんだからそれぐらい覚えてもらわないと……」


「ほひほーさま!はいじょ……(ごっくん)…大丈夫!今日もへんしーんしていくから!」


 それを聞いた母は肩を落とし、ジジに呆れた目を向ける。


「そんなんだからあんたは男ができないんだよ……」


「そ、それとこれとは話が違うよ!それにまだ誰にもバレてないんだから!!」



 そう言うとジジは、両手で自分の顔を覆った。そして数秒後、手を外したジジが顔を上げると、そこには女子高生らしい自然なメイクをしたジジの顔があった。

 緑の髪の上から生えた丸耳が自慢げにピコピコと動いている。


「そんなことばっかりうまくなって……」


「使える力は利用しなくちゃ損だよおかあさん!」


 目元から?が出そうな見事なウインクを決めると、時事は着替えを掴んで再び自分の部屋の中へと消えていく。

 残された母は、ため息をつくしかなかった。


「大丈夫なのかねぇ……あの子は……」



 ジジ達”化狸族ディジーブ”の持つ能力は「有機物を別の姿に変える」というもの。変える元の物体が有機物であれば、変化させる対象は無機物、別の有機物は問わない。

ただし、そのものが持つ性質自体は帰ることができないので、雑草をステーキ肉に変えたところで雑草の味がするステーキ肉になる。もちろん栄養価も雑草のまま。変えられるのは感触(硬度)と見た目だけ。



 ジジの瞬間化粧は、この能力を応用したもので、”自分の顔”を”自分の化粧した顔”に変身させただけなのである。


「準備万端!!今日も元気にいってきまーーす!!!」



 玄関のドアを勢いよく開けると、ジジは小さく鼻歌を歌いながら学校へ向け歩き出す。近所の人達はもはや見慣れた光景なのか、鼻歌少女に笑顔を向け、ジジもそれに笑顔で挨拶を返している。

ちなみに鼻歌で歌っている(?)のは、どんぐりころころ。彼女の中では童謡がマイブームだった。


 学校の程近く、一階がコンビニになっているビルのそばで、大きな影を見つけ、ジジは立ち止まる。


「フィーリオさん!おはよーです!!」


 そこに立っていたのは、火竜イグニスと呼ばれる種族。ジジの倍近くある巨大な体と、頑丈な赤い皮膚、そして鋭い爪と牙を持つその見た目は、ファンタジーゲームに出てくるドラゴンが立って歩いているかのように見える。

そんな巨大な火竜種も、ジジと同じデザインの男子学生服を着ているのだから、ジジは思わず少しだけ笑ってしまった。

 フィーリオと呼ばれた火竜種は、ジジに笑われたことなど気づいていない様子で、大きな口を目一杯広げ、あくびをする。


「あぁ……お前か。今日も買ってこいよ?」


「はい!今日は何パンにしましょう!?今日は走りますから何でも買えちゃいますよー!」


 ジジは華麗なランニングポーズを決めると、フィーリオに向かってウインクで?を飛び散らせる。フィーリオはうざったそうにジジを見下ろすと、鋭い鉤爪で頭をボリボリと掻いた。


「今日はなんでもいい。昨日みたくたくさん買ってきてくれりゃあ万々歳だな。頑張ってくれよ?”お金がなくて困っている俺たち”に優しいお嬢さんは恵んでくれるんだろ?」


「もちろん!困ったときはお互い様なのですよ!むしろ頼ってくれて嬉しといいますか…なんと言いますか……はっ!!もうこんな時間!遅刻!フィーリオさんも急いだほうがいいですよ!」


 そう言うや否や、ジジはすごい速度で学校の中へと消えていった。

 フィーリオはその姿を見ると、学校とは逆方向へと歩き出した。


「早起きして”金がねぇ”って言えばパン買って走ってくる、なんて馬鹿な奴。困ったときはお互い様、ねぇ……馬鹿は簡単でいいや」






「あーーーーーー!!私のお弁当忘れた!!」


 そんな悲鳴が聞こえたのは授業開始のわずか二分前のことだった。

読んでいただきありがとうございます!

次回更新は9月27日(火)です!


 ■  ■  ■

用語解説


異星人によって侵略された地球には様々な種族の生物が住み着いています。

今回はその一部をご紹介……


[人類エト


かつて地球を支配していた種族。

しかし現代においてはその力を失い、個体数も減少しつつある。



[化狸族ディジーブ


可愛らしいタヌキの姿をした種族。地球に住むようになって、生きやすいよう常に人型に変身している。戦闘能力は高くない。

 頭は決して悪くないが、人がいいため、騙されたり利用されてしまうことが多い。


有機物を別の有機物へ変化させる力を持つ。特に葉っぱを頭に乗せる必要はない。



[翅有族レヤペレティ


昆虫ような翅を持った種族。基本は人型、そこに翅や尻尾、場合によっては触覚が生えている。昆虫といっても、翅のないものや、蝶のように大きな羽を持つ者は翅有族には分類されず、甲殻虫の多くが分類されることが多い。


 個体やベースになる昆虫によって差があるが、一般的に思考能力が高く、戦闘力が低い。ガリ勉くん。



[火竜族イグニス


人間に比べ、巨大な体躯、牙、爪を持つ種族。非常に強い力を持ち、他種族を支配しようとする傾向にある。

成人するまでは二足歩行の半人型で生き、成人すると、龍型、半人型を完璧に操れるようになる。


思考能力はあまり高くないが、戦闘の際はその天才的な直感で圧倒的な力を見せる。

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