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02話 飴玉長者

「うぅ……今日もパン買えなかった……」


 


高校に併設された購買の前、緑色の髪の少女が俯いていた。

 


手にはタヌキのマークが入った財布と小さなメモ用紙の端しきれ、少女はカウンターの中にいる老婆に目を向けるが、老婆は申し訳なさそうな顔をしたまま苦笑いをしていた。




「ごめんねぇジジちゃん。今日も売り切れちゃったのよ、もう少し早く来てくれればあったんだけど…」




「今日もフィーリオさんに怒られる……」


 


パンが並んでいたであろう空のカウンターを背に、ジジはトボトボと歩き出す。


そして俯いていた為、目の前のお菓子コーナーに立っていた人影に気づかず正面からぶつかった。




「ひぁっ!!?」


 


尻餅を付いたジジが上を見上げると、そこには学生服に身を包んだ白髪の青年が立っていた。


中性的な顔立ちの青年は、眼鏡の奥から、興味なさげに自分にぶつかってきた少女を見下ろしている。





「大丈夫か?」




「はい…お尻いたいですけど大丈夫です……ぶつかっちゃってすみ…」



「ならいい。じゃあな」





 ジジの無事を確認すると、その言葉が終わるよりも早く青年は去っていく。



 しばらく惚けていたジジだったが、男子生徒が持つ紙袋を見た瞬間、目を見開いた。




「そこのお人!ちょいとお待ちをぉぉおお!!!!!」




 時代錯誤のセリフが校舎中に響き渡った。男子生徒がうっとおしそうに振り返る。


ジジは尻餅の体勢からコンマ数秒で立ち上がると、一瞬にして男子生徒へと駆け寄った。




「それ…その紙袋……そこのパン屋さんのですよね……」




 目をギラつかせながら、自分の持っている袋を指差す少女を見て、男子生徒は少し引きつったような顔で首を縦に振った。




「ひ…ひとつ、譲ってはいただけないでしょうか!」




 ジジは他の生徒など目に入っていないかのようにジャンプから美しい土下座へとトランスフォーム。

そのまま地面に頭を擦りつけんばかりに懇願した。





「……嫌だ」




 ジジの土下座も虚しく、男子生徒はスタスタと廊下を歩いていく。


その場には土下座の体勢のまま虚しく放置されたジジが一人。




「一個!一個だけでいいんです!!そんなに食べれないじゃないですか!ほら!!」




 しかしそこで諦めるジジではない。

なぜなら男子生徒の持つ紙袋には明らかに一人分ではない程のパンが入っていたからである。


ただでさえ数の少ないパンをこんなにも買い占めるなんて許せない……。


ジジは燃えていた。




「嫌だよ」



「なんでですか!お金払います!なんでも言う事聞きます!パンください!」




 男子学生は心底うっとおしそうに、廊下で美しい土下座を展開し続ける少女を見下ろす。



そして、たっぷり数十秒は眺めたあと、無視して歩き出した。





「なんでですか!こんなにお願いしてるのに!!」




「金払うだけなら誰でもできるだろ。それプラスの何かがあるなら考えてやってもいい」




「土下座……」




「却下」




 ジジは涙目になりながら必死に自分の制服のポケットを漁った。


しかし、出て来るのは愛用している目薬にヘアゴム、コンビニのレシートに、小さくなった消しゴム、到底この強情な男子生徒を納得できそうなものは入っていない。




「こ!これならどうですか!!」




 唯一、使えそうだったものを呆れ顔の青年へと差し出した。


それはどこでも売っているような普通の飴玉、棒の先端にスーパーボールほどの大きさの飴がついたそれだった。




「ダメ、です…か…」



挿絵(By みてみん)




諦めたジジが、手を引っ込めようとしたその時、目の前に青年の手が差し伸べられた。


その手は何も言わずジジの手から飴玉を奪っていく。




「交換だ、もってけ」





 男子生徒はその場で飴の包み紙をはがすと、口に咥える。


そして、わけもわからないまま紙袋を抱えさせられたジジを置いて去っていこうとした。



 数秒後、ジジが男子生徒から渡された紙袋の中を確認すると、中には大量のパン。


40円の飴玉なんかでは到底釣り合わないことは明白だ。



ジジは男子生徒を追って入ったこともない違うクラスの教室の中へ、目的の人物を窓際の席に見つけると、駆け寄って財布を取り出す。




「お金!!お金払います!!」




「飴と交換したからいい。どうせ俺が食う為じゃなかったしな」




「え、でも……」




「いいから、どっかいけ、俺はもう眠い」





 男子生徒は目を閉じると、戸惑っているジジに向かって再度「どっかいけ」と手を振った。




「せめて名前を聞いてもいいです…?」




 ジジが小さな声で聞くと、男子生徒は口を開くのもめんどくさいといった表情で、ジジの持っていたメモの切れ端を奪い取ると、そこにいくつか文字を書き、手渡した。




”烏鷹蛍”メモ用紙にはそう書かれていた




「読めない!たか…?ほたる……あの、なんて読むんですか?」




 ジジがメモから顔を上げると”烏鷹蛍”なる人物は、すでに夢の世界へと旅立っていた。


ジジはお辞儀をすると、ポケットからありったけの飴を机の上に並べ、自分の教室を後にした。




「いい人だった!これでフィーリオさんに怒られずに済む~。はっ!!これだけあれば私も一個ぐらい食べてもいいのではっ!?」





 紙袋の中には食欲を誘う香ばしい香りのパンがいくつも重なっている。


ジジはその中から渦巻き状のチョココロネを取り出すと、はむっ…っと齧り付いた。



香ばしく焼き上げられたパンの中には、甘すぎず、程よく柔らかいチョコクリームがぎっしりと詰められている。


一口齧ると、それが口に中で融合しそれはもう………





「絶品ですぞーーーーっ!!!!」



 



この昼休み、二度目の絶叫が、校舎中にこだました。

今回はたぬきちに挿絵を描いていただきましたー!

嬉しい嬉しいっ☆


次回更新は20日火曜日です!

よろしくおねがいします!



■用語解説


第七学術機構セブンス


地球に作られた七番目の学術機構。

入学する条件は他の学術機構に比べて遥かに低く、一般的に落ちこぼれと呼ばれる生徒が集まる。


または、学費もほとんど0と言われるほどに安いので、資金的に何がある家庭の生徒もここにいることが多い。


一方、施設的にはかなり広大な土地を使っており、日本の本州の半分ほど占めている。

生徒数は約4000万人、それらが約4000人ずつ、各地に作られた合計10個の巨大施設へとそれぞれ通っている。


授業や実習は他の学術機構の約半分程度。

仕事に就くには独学での勉強が必要になる。


落ちこぼれの学校。それがセブンスである。

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