幕間:壱 「虚飾の街」
虚飾の街、ひときわ大きな建物の屋上に彼女はいた。
「もしも、どこかの誰かが、愚かな生物共、と言ったとして、その生物には当然、自分自身も含まれている。生き物について知りたいと思ったら、彼らを見ているだけではいけない」
乱立したビルの隙間を抜けた風が、長い黒髪とワイシャツの裾をはためかせる。
少女は輝く街灯とビルの明かりに、目を細めうっすらと笑みを浮かべる。
―― 彼らが何を見ているかに注目しなければ。
―― あなた達は、何を見ているの?私は、あなた達を見ている。
眼下の街、かつて東京と呼ばれた、人間がこの住むこの街は、あの時から変わってしまった。
―― 信じられないかもしれないけど、私はあなた達のことが好き。昔からよく言うでしょう?愛の反対は憎悪ではなく、無関心。興味がないのなら、わざわざ憎んだり痛めつけたりはしないの。
屋上まで街の灯りは届かず、月明かりだけが彼女の顔を照らしていた。
その顔に浮かぶ笑みはどこか悲しく、それでいてイタズラをする前の、子供のような無邪気さも併せ持っていた
―― 余計なことばかり考えて、つい笑ってしまう。
「……あと少しね」
少女は吹きすさぶ風を纏うように建物の中へと消えていく。
そのあとには僅かなバラの香りだけが残っていた。
次回更新は9月16日金曜日です。
ようやっと主人公登場!無気力系主人公の嘘だらけ生活が始まります。
※用語解説※
手首装着型万能デバイス「スケルツ」
生後5ヶ月から死亡するまで着用が義務付けられた機械。
これを着用していなければ、公的な保証が受けられないだけでなく、戸籍の確認が取れないため、買い物や生活に必要な支払いができないため、生きていけないとされている。
装着者の体温、心拍数、その他の要因から心理状況を読み取ることが可能。
また、従来のスマートフォンのような機能も備えており、電話、メールをはじめとしてさまざまな機能を使うことが可能。ユーザーの好みによってアプリを追加(一部有料)することによって、独自の機械へと進化していく。
昨今では”コンタクト型液晶”の開発が進み、スケルツと連動することによって仮想ディスプレイを網膜上に直接映し出せるようになった。
完全防水、防塵。強度は惑星爆発にでも巻き込まれない限り壊れないとされている(真偽は定かではない)
後ひとつ隠された機能があるらしいですが、それはもうまもなく本編にて明かされますのでそれまでお待ちを……
それでは、次回の更新までさようなら~




