11話 代償
体育倉庫の中には沈黙が流れていた。
蛍の手首から先は、いつの間にか普通の手に戻っている。
手を下ろした蛍は、口を開いた。
「化狸族の能力は”有機物を別の有機物に変化させる力”。ただ、俺の”グー”を”パー”に変えてもらっただけさ」
スケルツは賭けにおいて、カメラによる判定ではなく、当事者の身体情報を読み取ることによって判定する。
つまり、見た目はパーでも、判定はグー。
「一戦目、お前が何を出そうと、この勝負を受けた時点でもう詰んでたんだよ」
蛍は悪戯な笑みを浮かべる。
「な……イカサマだ!イカサマは失格だろ!!」
「何言ってんだ?それは”ゲーム中の話”だろ。ルールは”イカサマが発覚した場合、失格とする”、バレない嘘は嘘じゃない。」
「い…いつからだ!お前らはいつから手を組んでいた!そんなことする暇はなかったはず!」
「いつから?だから初めからだよ。お前がここに来る前から、俺はこいつに連絡を取って計画を練っていた。さて、そろそろいいだろ?俺はもう一度寝直したいんだ」
フィーリオがわめき散らす中、それぞれのスケルツが無機質な音をあげた。
「 ピーーー ……… フィーリオノ負ケガ決定シマシタ。条件ニ乗ッ取リ行使シマス」
音が止んだ瞬間、誰も触れていないはずの体育倉庫の扉が勢いよく開けられる。
「さあ、出て行ってくれ」
開かれた扉に向かってフィーリオが少しづつ進んでいく。
「あぁああ!なんでだ!なぜ足が勝手に動く!」
もがくフィーりオの腕は何もつかめずただ宙を切る。
やがて体育倉庫から体全体が出ると、今度は扉が自動的に閉められた。
「ぜってぇ許さねぇ!覚えてろ白髪頭!」
吠えるフィーリオに、蛍はまるで興味なさそうに手を振った。
「はーい。さよならー」
「なんで、私なんか助けてくれたですか?」
静かになった体育倉庫の中、ジジがゆっくりと立ち上がった。
「別に理由なんてない。ただ、なんとなくだ」
蛍はそっけなくそう言い、体育倉庫を出ていこうとする。
「せ、せめてお礼を!そうしないと私の気が収まりません!」
「なんだお前は、江戸時代の町娘か」
「いや、それはちょっとわかんないですけど……とりあえず、なにかお礼!」
上目遣いで自分を見つめるジジにため息をつきながら、蛍は手を伸ばした。
「そうだな……じゃあ、飴、持ってるか?」




