10話 化狸族
「ガァアアアアアアア!!!」
フィーリオの口から一度目よりも巨大な火球が放たれる。
炎は俯いたままの蛍を包み込み、周囲の美品たちへと焼け目を付けた。
「だから、効かねぇって……」
本来、火竜種の火球は通常のそれとは違い、水や風で消えることはなく、対象を燃やし尽くすまでその勢いを弱めることはない。
侵略時には地球表面の約30%を焼き尽くしたとされている炎は、人類を恐怖に慄かせた。
そんな炎が、一瞬にして消失した。
顔を上げた蛍は、呆れたような表情を浮かべている。
「さっきもやっただろ。俺にソレは効かねぇよ」
「クソガァッ!!」
のけぞった蛍の数センチ先を火竜の爪がかすめていく。
笑みを浮かべたままの蛍は、次いで繰り出された頭突きも、バックステップをとることで難なく躱した。
「それもさっきやっただろ。お前はなんにもわかっちゃいない」
「ウルセェエ!!イカサマしやがって!ぶっ殺してやる!」
「これだから単細胞は……いいか?順を追って説明してやる。お前は、俺に負けたんじゃない。コイツに負けたんだ」
蛍は、体育マットの上で小さく座っている少女を指さした。
突然二人に見つめられたジジは体をこわばらせる。
「なんで、俺がこんなところで寝ていたと思う?こんな埃っぽくて到底昼寝なんか出来そうもない場所に」
「は?それはここがお前の……」
「んなわけあるか、バーカ」
フィーリオの眉が僅かに動いた。
そんなこと気にした様子もなく蛍は続ける。
「こんな場所で昼寝なんかしねーよ。俺は、予定通りお前を待っていただけ」
「……予定、どおり?」
「お前のことは学校でも割と有名だったからな、調べればお前がパシリにした女子生徒を体育倉庫に連れ込んでいることなんかすぐにわかった。あとは、ご丁寧に毎日あしげ良く通っているパシリに連絡してここに誘導するだけ。お前が馬鹿だったおかげで簡単だったな」
「は……?なに言ってやがる、俺はただこの女が使えないから……」
フィーリオに指さされたジジはビクッっと身をすくませる。
それを見て蛍はため息をついた。
「そこからだ。なんでコイツが使えないと判断した?パンを買ってこなかったからか?財布を渡さなかったからか?」
「なんでそれを知ってる!」
「まだわかんねぇのかよ、仕方ねぇ、教えてやる……今日、コイツがパンを持って行かなかったのも、財布を渡さなかったのも、お前がここに来たことも、全部俺が指示したことだ。あ、ちなみにコイツ、今日はちゃんとパン買えてたぜ?……俺とこいつで食ったけど」
ジジは座り込んだまま顔をほころばせている。
少し前に食べたパンの味でも思い出しているのだろうか。
「その時に打合せしたのか?」
「や、打ち合わせなんて大層なもんじゃない。ただ俺は三つだけ指示しただけだ、パンは買わずに行くこと
。そして財布を要求されてもぜった渡さないこと。そして……」
蛍はおもむろに左手を上げた。
全員の視線が注目する先、そこにはありえない光景が広がっていた。
上に向かってあげられた左手、その先に手のひらはなく、
そこにあったのは左足だった。
手首の先には踵があり、そこから土踏まず、そして指がついている。
「コレが三つ目。すごいだろ? これがコイツ、化狸族の力だ」
更新が一日遅れてしまい、申し訳ありません。
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