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幕間 「それぞれの正義」

―――パリーンッ!!


男は大きな袋を抱え、先ほど自分が押し入った宝石店から逃げ出した。割られた窓ガラスが人通りの少ない道路へと散乱する。


周囲の住人たちは驚いたり、怯えたり、はたまた追いかけて逃げられたり、多種多様な反応を示す。

そんな中、一人の少女は、路地の裏へと消えていく男を見て、微笑んでいた。


そして少女自身も、男が消えたのとは別の路地裏へと入っていく。そこには細い階段があり、その先は暗くどこに繋がっているのかは想像もつかない。




異星人に世界された現代において、犯罪数は減少する傾向にある。


街中に張り巡らされた監視ネットワークに、手首に付けられたスケルツによって感情の変化までも記録されてしまう。犯罪を犯したところで、捕まるのは時間の問題だろう。


実際に異星人によって社会が作られてから、犯罪者が逃げ切れた事例は存在しない。



しかし犯罪は”減少”することはあっても”無くなる”ことはなかった。


ある学者は、その理由をこう言った。


「犯罪者は、犯罪を悪いものと思っていません。彼らにとって、その行為は善であり、正義です。この世界に個性がある限り、犯罪はなくなりませんよ」




 宝石を盗んだあの男も、もうまもなく捕まることだろう。


 彼はなぜ罪を犯したのだろう。窃盗が罪であることは彼にもわかっているはずであるのに。



 もしも、彼に病気の妹がいたとしたら?

 今日中に資金がなければ唯一残された肉親が死んでしまうとしたら?

 何十人もの飢えた子供たちがいるとしたら?



 何があったのか知る由はないが、彼にとってそれは宝石強盗という罪を犯してまでも守りたいものであったのだろう。



 宝石強盗をした男は、わずか数分後、駆けつけた警察官らによって拘束され、連行された。

走って逃げている男が、空を飛ぶ飛竜種ヴォラニウムの警察官から逃げられるわけがなかった。


 しかし、捕まった男の手から、盗まれた宝石は消えていた。誰かに渡されたのか、途中で隠したのか。男が望んだ結末になったのかは分からないが、あの行動で誰かが損をし、誰かが救われたのだろう。




 少女は、階段を下りた先にある扉を開いた。


 そこには、様々な種族が広大なホールの中、飲み物や食べ物を手に、騒いでいる。

 少女はホールの奥、全体を見渡せるように高く作られたステージに上がると、軽く手を叩いた。


 「時は満ちました。これより、計画を始動いたします!」


 通常の二倍あるであろう巨大な火竜族イグニスが、ホールの三分の一を占拠してしまうような巨龍族クィ・アゥティミングが、人間の中でも小柄な、それも年端もいかない少女に対し尊敬の目を向ける。


「これまで、個人の正義は、社会の正義によって殺されてきました。これは戦争です。正義を取り戻すための戦争なのです」



 一気にホールの中が熱気に包まれる。

 誰もが興奮し、少女の言葉を聞き逃すまいと顔を上げていた。



「社会の正義を壊し、私たちが新しい正義を作る。考えただけで、ゾクゾクするでしょう?」

次回更新は10月25日(火)です!

よろしくお願いいたします~<(_ _)>

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