09話 勝者
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○ 限定ジャンケン
ルール
・勝負は三回勝負。
・通常のジャンケンと同じようにグー・チョキ・パーの三種類を、お互いが掛け声と同時にひとつ選ぶ方法で勝負を行う。両者が同じものを出した場合、再戦はせず、その勝負を引き分けとする。
・全三回勝負中、勝利数が多かった方を勝者とする。
・引き分けだった場合(3分け・1勝1敗1分け)、フィーリオの勝利とする。
・掛け声はお互いが交互にかけるものとし、先行は話し合いで決定する。
・勝敗が決定した時点(どちらかが先に2勝した場合)で賭けは成立とし、ゲームは終了する。
・ゲーム中の暴力行為は禁止とし、相手に触れた場合、失格とする。
・イカサマが関知された場合、失格とする。
フィーリオ勝利 [蛍の退学、そして再入学の禁止]
蛍勝利 「フィーリオのいじめ行為禁止、体育倉庫への出入り禁止」
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体育倉庫の中は、不思議な静けさに包まれていた。
フィーリオと蛍は互いににらみ合い、ジジは両者の間で心配そうにキョロキョロとしている。
「”最初はグー”でいいか?」
蛍が発したこの言葉に、フィーリオは興味なさげに頷いた。
「なんでもいいからさっさとやれ」
「やれやれ、せっかちなやつだ……」
負ければ確実に”人生がズレる”勝負。
「最初はグー!じゃんけんポンっ!!」
掛け声とともに出された手は
蛍・パー / フィーリオ・チョキ
「ふははははは!!俺の勝ちだ!」
「………ふむ。すごいもんだ」
蛍は自分の手を見つめ、少し笑っていた。
フィーリオはその様子を見て、さらに高らかに笑う。
「さぁ!退学までリーチだ!なんなら俺様の奴隷になるってことで許してやろうか?」
「その必要はない。次の勝負に行こう」
「余裕ぶりやがって!これで終わりにしてやるよ。最初はグー、じゃんけん…ポンっ!!」
ジジは目をつぶっていた。
一戦目負けた蛍は次の勝負が引き分けでも敗北が決定する。
お互いに残された手は
蛍 ・グーorチョキ
フィーリオ ・グーorパー
ここで蛍が勝つには、フィーリオのパーに、自分のチョキをぶつけるしかない。
二回戦目の結果は
蛍・チョキ / フィーリオ・パー
蛍の手を確認した瞬間、フィーリオは笑みを浮かべた。
「おぉっと……これで一勝一敗か。……だが、残念だったな、俺の勝ちだ」
その時、ジジも気づいてしまった。
残された手は
蛍 ・グー
フィーリオ ・グー
三回戦目の結果はもうやらなくても決まっている。
勝負は一勝一敗一引き分けで終了する。
そしてそれは当初のルール通り、蛍の負けを意味していた。
「お前の決めたルールだ、負けを認めろ。それとも今更撤回して欲しいとかほざくのか?お?」
フィーリオは蛍を挑発するように顔を近づけた。
本当に、たった数分で、勝負はついてしまった。
たわいのないジャンケン二回。それだけで一人の人生が、ねじ曲げられようとしている。
「撤回して欲しいなら、この場で裸になれ、そしてそうだな……この女を……」
「もうゲームは終わったのか?」
笑みを浮かべていたフィーリオの顔が、一瞬真顔になり、そして再び笑顔になった。
「何言ってる。 もう勝負は決まった、お前の負け……」
「フフ……」
蛍は手首のスケルツを掲げた。
”勝敗が決定した時点(どちらかが先に2勝した場合)で賭けは成立とし、ゲームは終了する。”
”通常のジャンケンと同じようにグー・チョキ・パーの三種類を、お互いが掛け声と同時にひとつ選ぶ方法で勝負を行う。両者が同じものを出した場合、再戦はせず、その勝負を引き分けとする。”
”全三回勝負中、勝利数が多かった方を勝者とする。”
何もない場所に映し出された仮想ディスプレイには、再びルールが羅列された。
そして全て表示しきったあと、新しい文字が打ち込まれる。
”勝敗が決定しました。勝者は……”
体育倉庫に奇妙な沈黙が流れる。
フィーリオは勝ちを確信した顔で笑みを浮かべ、蛍は顔を伏せたまま動こうとしない。
蛍が沈黙を破り、口を開いたのと、ディスプレイに新しい文字が打ち込まれるのはほぼ同時だった。
「イカサマが関知された場合、失格とする。つまり、感知されないイカサマはどうなると思う?」
”勝者は……烏鷹 蛍”
へたりこんだまま勝負を見ていたジジには全てが見えていた。
二戦目が終わったあと、顔を伏せたまま蛍の顔が笑顔に変わったこと、そしてフィーリオの顔が大きく歪み、その口を大きく開けて炎を溜めたことも。
今回も読んでいただいてありがとうございます!!
次回更新は10月21日(金)です。
次回は用語解説できるかな……できないかな……?(どっちだ)




