00話 プロローグ
上空から放たれた火球が、大地を抉り、周囲の草木を一瞬にして黒い炭の塊へと変化させた。その火球を放った巨大な龍は、口元から僅かに炎をこぼしながら、地上へと脚を下ろす。
草原には、もはや彼以外の生き物の姿は見えない。辺り一面に広がっていた草木も、もはや申し訳程度に残すのみ、かつては綺麗な水を湛えていたであろう湖は、植物や動物の死骸などによって、どす黒く染められていた。
また、別の場所では、フードを目深にかぶった女性が、自身を取り囲む多くの人間へ向け、手を広げていた。彼女の前にいるのは、皆お揃いの黒い服を着て、手には透明なアクリルの盾と、拳銃を持った人間。
男の一人が、何かを叫ぶものの、彼女はまるで気にする素振りもなく、ただ、真上へと挙げた両手を、勢いよく振り下ろした。
刹那、振り降ろした彼女の腕から、白い雪の結晶のような物が現れ、屈強な男たちの盾へ、腕へ、顔へと、まとわりついていく。わずか数秒の後、お揃いの服を着ていた男たちは、そのほとんどが凍りつき、命を終えていた。
残った男たちは、恐怖に顔を歪め、後ろを向いて逃げ出す。
「こんなっ……こんなこと、ありえねぇ……なんで地球で、こんなことがっ…!」
それを見た女性は、再び腕を振り上げ、今度は逃げ出している男に手を向ける。再び現れた雪の結晶は男の体を包みこみ、他の男たちと同じように、彼を動かない氷の彫像へと姿を変えた。
全ての男を氷漬けにしたあと、女性は微笑みながら、ゆっくりとその場を後にする。
そしてその姿が建物の影に消える直前、薄く紅を引いた唇が、小さく動いた。
「ありえないなんてことは、ありえないのよ、坊や」
二十世紀末、青く美しい星は、その姿を変えた。
空には火を噴くドラゴンが飛び回り、人の何倍もある巨人は斧を振り回しながら暴れまわる。手から氷を放つ女や、稲妻を纏った獣は街中どこにでも現れ、抵抗の有無にかかわらず、街や人を破壊してゆく。
これはファンタジー小説の話でも、ましてゲームの中の話でもない。今の地球における、現実だ。
伝説の勇者も存在しないし、剣や盾が売っている店も存在しない。体力回復の薬を売っている店もないし、人は、簡単に死ぬ。
突如として現れた宇宙船から「高次生命体」と名乗る生き物が出てきたのは、わずか数時間前。
彼らは地球人が今まで想像していた「宇宙人」の容姿とは、かけ離れた姿をしていた。火竜種と名乗る赤い龍、人間に似た姿を持ちながら、手やその他器官から魔法を放つ氷人族。
まるで本やゲームの世界から出てきたような宇宙人は、降り立つやいなや、攻撃を開始した。
無差別な破壊行為が始まって一日。地球の三分の一は、焼き野原と氷原へと変わり果てた。各国の軍隊や兵器は彼らに対し、かすり傷ひとつ負わせることができない。
絶望的な状況の中、上空に浮いたままの宇宙船から突如として声が響いた。
「降伏するなら攻撃を中止する。条件は、地球における知的生命体の服従、そして我々のこの星への移住、他の種族との交流地点とするための土地の提供だ。要求を呑むのであれば、惑星の代表者は生存している知的生命体を屋外に集めよ。明朝、その場所以外の全地表を焼き払う。決めるのは君たち次第。我々はただ、これらの行為を行使するだけに過ぎない」
地球全土へと響いた声は、人々をさらに混乱へと陥れた。
―― 服従とはどの程度のことを言うのか。
―― 自分たちの生活の保証は
―― 集まろうにも何処に行けば
―― 軍隊はもう負けてしまったのか
結果として人々がとった行動は、近くの生きている人間とコミュニティを作り、屋外で行動する、というもの。そしてまた別の集団がいれば、合体することで徐々にコミュニティを大きくしていく。
どのくらいの集団でいれば攻撃されないのかということが明確にされていない以上、人々は自らが生きるため、動き、そして自分たちの団体を大きくしていく。
上空には龍が飛び、氷漬けの街の中を、人々は動き回った。
そして翌朝。
彼らは、予告を現実のものとした。上空を飛び回る火竜は、人がある程度集まっている場所を避け、大地すべてを焼き払っていく。
人間が何千前年も前から守り続けてきた歴史的建造物も、最新の技術を賭して作られた巨大な電波塔も、すべてが火竜の口から吐き出される火球によって破壊されていく。
その攻撃も終わったとき、再び宇宙船から声が響く。
「私たちの侵略活動は以上をもって終了とする。以後、生存している知的生命体は、私たちの絶対支配の元、行動することを命ずる」
生き残った人類は約二億人。青い星を支配していた人間という生き物は何百年とかけて手に入れた地位や力を、七十億人以上の命とともに、僅か二日で失った。
地球は、侵略された。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
明日19時にも第一話を更新いたします。そちらも是非お願い致します
ではまた!(◎ω◎)ノ




