海の悪魔、パウル・ハウゼン
俺とムンクが船の甲板に出るとそこは大変な騒ぎになっていた!!
マストは折れ、床のところどころが破壊されている。
どういう事だ?何が起こったんだ?
俺がキョロキョロと周りを見回していると、ムンクは海のある一点を見つめていた。
「なんだ?何かあるのか?」
俺はムンクにつられて同じ方向を見る。
んっ!?遠くに何か見える!!あれは船か?
「ムンク。なんだ、あの船?あの船がなんかやったのか?」
「……」
俺は聞くがムンクから返事は無い。
「ムンク。あの船はなんだ?」
聞こえなかったのかと思い、俺はもう一度ムンクに聞くが、しかしムンクは返事をくれなかった。
「ムンク?」
俺は遥か向こうに見える船から目線を外し、ムンクを見る。
「ど、どうした!?ムンク!!」
俺はビックリする。ムンクは真っ青な顔でガタガタと震えているのだ!!
「ムンク?大丈夫か?」
「や、やばいよ。あれは……あのジョリー・ロジャーはパウル・ハウゼンだ……」
へっ?
……ジョリー・ロジャーはパウル・ハウゼン?
「どっちが名前だよ?」
「違うわ、ボケ。『ジョリー・ロジャー』って海賊旗のことだろうが!?」
海賊旗?そうなのか?海賊旗の事をジョリー・ロジャーっていうのか?
つまりあの船には海賊が乗っている訳だな。
「では、この船とは同業者だな」
「どこまでおめでたいんだ、お前は!?あの船に襲われてるんだよ。ブルグン達は」
何?海賊が海賊を襲うのか?同業者なのに?
ムンクは相当に目が良いようだが、ようやく俺にもそのジョリー・ロジャーが見えるほど、その海賊の船は近づいてきた。
俺の海賊旗という言葉から浮かぶイメージは、髑髏の下に骨でバッテンというような絵であったが、そのパウル・ハウゼンの海賊旗は違った。
その模様は、髑髏の下に五体がばらばらになっている人間の絵であった。不吉な事このうえない。
「そのパウル・ハウゼンとやらの何がやばいんだよ」
俺の言葉にムンクは一瞬言葉を失う。
「お前?あの……海の悪魔と恐れられるパウル・ハウゼンを知らないのか!?」
「残念ながら……」
俺は頭をポリポリかきながら照れ笑いをする。
「いや、やばい奴なんだよ!本当に!!襲った船の乗組員を皆殺しにするのは当たり前……」
「……」
「……仲間にも容赦はしない。とんでもない逸話もある」
俺はそれがどんな逸話かを聞いてみる。するとムンクは説明してくれた。
それはパウル・ハウゼンが手下の海賊とカードゲームをしていた時だ。ゲームはパウルの一人勝ちだった。よほど、パウルも機嫌が良かった事だろう。しかし、彼は突然懐から銃を出して手下の海賊に向けたのだ。
手下の海賊としては意味が分からない。何もパウル・ハウゼンを怒らせるような事をしていないからだ。それどころかゲームはパウルの一人勝ち。
しかし彼らはパウルの気性の荒さを知っている。撃たれてはならないと慌てて逃げ出したそうだ。一緒にカード・ゲームをしていた三人の手下のうち、二人はすぐに逃げ出したのだが、しかし、一人の度胸ある手下が逃げずにその場に残った。
「それでどうなった?」
俺はムンクに聞く。
一人残った手下は……パウルに銃で撃たれた。その手下はパウルに聞いたという。「なぜ、自分は撃たれないといけないのか?」カードゲームはパウルの一人勝ちで、何も撃たれる理由は無いと。
するとパウルはこう言ったそうだ。「みんなが忘れるといけないだろう?ちょくちょくこういうことが無いと!!」
撃たれた手下は死ぬ間際に聞いた。いったい何を忘れるというんだ?
「俺がどんなに狂気に満ちて恐ろしい奴かって事をだよ……と言って笑ったそうだ」
「な、なんだよ。それ。ただの殺人狂じゃねえか!狂ってやがる」
何の前触れも無く、そして意味も無く人を殺すとは?信じられない。
俺は背筋に寒いものを感じる。
そんな奴が、この船に攻撃を仕掛けてきているのか?
じゃあ、さっきの衝撃と爆発音は、パウルの船の大砲による攻撃か!?
それこそ「オーバー・ヒート」なんかきかない。手錠すら壊せなかったのだ!!大砲の弾をどうにか出来る訳が無い。
「駄目だ。向こうの方が船足も速いし、性能が上だ。じきに乗り込まれる」
そうだ!俺のスキルに「大砲」があったじゃ無いか。あれでどうにかならないだろうか?
「こちらの大砲は?こちらからも大砲を打ち込むのはどうだろう?」
「いや、もう距離が近すぎる。それにこちらから大砲が打てる範囲内にはもう入ってこない」
俺とムンクが話をしている間もパウルの船はどんどんとこちらに近づいて来る。
「者共!!迎え撃つ準備をしろっ!!」
ブルグンの大声が響く!!
海賊VS海賊か。面白い展開ではあるが、そんな中に自分が巻き込まれるとはな……
まずは反則技の「オーバー・ヒート」は温存しよう。あれはすぐに海賊力を消耗するからな。
多分、「ショーテル」のスキル「100」ポイントだけでも案外いけるだろう。
ヒョンッ!ヒョンッ!ヒョンッ!
俺は準備運動では無いが、自分の剣ショーテルを振るう。
スキルポイント「100」のおかげで、こんなひん曲がった剣も自由自在である。
パウルの船はかなりこちらに接近してきている。船の上には一種の緊張感が漂う!!この先、殺るか殺られるかの殺し合いだ!!
俺も「HP」が「0」になり、死亡すれば、ゲーム・オーバーとなる。
ただのゲームなのでまた最初から始める事は出来るだろうが……こんなクソゲーをまたやるつもりは無い。
死ねば、そこでジ・エンドだ。
「おい、お前。少し下がらないと危ないぞ!矢の届く距離になった!」
ムンクが俺の服の袖を引っ張りながら言う。
「おい、いい加減、お前、お前と呼ぶのは止めろ。俺には立派な名前がある」
そういえば、まだムンクに俺の名前を名乗っていなかったな。
「お前はなんていうんだ?」
「俺の名前はマサ……ジーク」
危ない。本名を言ってしまうところだった。
「マサジーク?変わった名前だな?」
「違う!ただのジークだ」
「分かった。ジーク。とにかく矢の距離のうちは何かの物陰に隠れていよう」
「分かった」
俺は一度は隠れるが、矢での攻防など無いに等しかった。そんな中途半端な距離でパウルは悠長にはしていなかったからだ。
ガッツ!!ガッッ!!
すぐにパウル達はこちらの船に何かを投げ込んでくる!その何かは魚釣りの釣り針を、四方向に出したような形をしている。そしてその投げ込まれた物にはロープが結ばれており、そのロープの先はパウルの船へと繋がっていた。
ガッツ!!ガッッ!!
そのロープがあちらの船から引っ張られる。するとこちらに投げ込まれた釣り針のような形をしたそれは、ガッツリとこちらの船のヘリに食い込んだ!!
そんな釣り針のような物が十か二十ほど投げ込まれてグイグイと引かれる!!
グッ、グッ、グググゥッ!!
こちらの船が風と波に逆らって引き寄せられるのが分かる!!
な、なんて力技だ!!こんなでかい船が人の手で引き寄せられる!!
ガッタッーン!!
とうとう、船と船が接触した!!
「うぉあー!!」
「おっー!!」
「おおおっー!!」
向こうの船から獣の咆哮のような声が聞こえる!!
「な、なんだ?」
「威嚇だ……」
ムンクは言う。
「……ああやって威嚇して、こちらが怖じ気づいて抵抗せずに、降伏するようにしむけているのさ」
説明はしてくれるが、ムンクもかなり海の悪魔パウルの事は恐れているのだろう。ガタガタと震えている。
これが普通の船であればすぐに怖じ気づいて戦意喪失しそうだが、こちらも名のしれたデブッチョ海賊ブルグンである。
「者共っー!!ぶっ殺せっー!!」
ブルグンは威勢良く叫ぶっ!!
それに対して向こうの船からも雄叫びが聞こえる。
「うぉっー!!」
「ひゃっはー!!」
「おおぉっー!!」
パウルの手下達が言葉の通じない野蛮な獣のような叫び声を上げて、こちらの船に乗り込んできた!!!!