リン VS ラグナ
私の構えた武器を見て三人組は眉をしかめる。それはそうだろう、少し珍しい武器なのだ。
私の愛用する武器は長巻という武器だ。この時代にあったかどうかは知らない。
ゲーム・スタート時に刀鍛冶に大金を払って作らせたのだ。
長巻とは薙刀に似た武器で、イメージとしては薙刀の柄が短く、刀身が長くなったような感じだ。
なぜ、そんな武器を刀鍛冶に特別注文したのか?
それは私には元より武術の心得があり、この長巻が得意の武器だからだ。
私は姿勢を正して、右半身前に長巻を構える。
私の構えを見た瞬間に三人はニヤニヤと笑うのを止めた。
残念だ。一人は油断しているうちに仕留めたかったが……
少し下手に構えた方が良かったのだろうか?
……いや、それはないな。結局は私が勝つのだから同じ事だ。
私の持論では剣は絶対に槍には勝てない。
私の持つ長巻は槍では無いが、普通の剣よりも攻撃距離が長く、そして取り回しがしやすい。
私はそんじょそこらの男性よりは筋力があるつもりだが、この長巻は非力な女性でも扱いやすい。
「囲め!」
ラグナが他の二人に命令をする。
残念だな、お前達は私をここに誘き寄せたつもりだろうが、私にも選ぶ権利はある。
ここが狭い路地裏で無ければ、私もお前達をここで相手しようとは思わなかった。
私を囲む為に不用意に横を通り抜けようとした、お助け隊の一人に私は摺り足で距離を詰める。
相手は私がさっと距離を詰めた事とその動きに驚いたようで、剣を振り回して私に攻撃を仕掛けてきた!
キンッ!!
私は長巻を両手で持ち、下から男の剣を払う!!
すると男の剣は大きく上に弾かれた!!
剣を片手で持っている事と両手で持つ事の差だろう。奴と私では、武器に対する力の入り方が違う。
そして私は一度上に払った刀身を下に振りおろすだけでいいのだ。
ザクゥ!!
私は相手の体を袈裟斬りに叩き斬る!!
男はその場に倒れて生き絶える。
私が一人目と交戦中に隙を突いて二人目がかかってくるかと思ったがそうはならなかった。
こんなにも早く、一人目と決着が付くと思っていなかったのだろう。
しかし私はラグナとお助け隊の一人に挟まれる形になってしまった。
一人の人間が二人に挟まれるというのは大変不利な事だ。
私はス、ス、スと横に足を運び、狭い路地裏の壁を背にする。
これで最低でも背後からの攻撃は無い。
私は壁を背にして長巻を構え、待ちの姿勢を崩さない。
「……」
「……」
辺りは異様に静まり返っている。
こちらから攻撃をしても良いのだが、やはり二対一は不利である。攻撃には隙が生まれるものなので、出来れば相手に攻撃をさせたい。
「ラグナさん……どうします?」
残念だ、無鉄砲にかかってこればよいものを……そこまで馬鹿では無いようだな。
ラグナは少し考えてから言う。
「仕方ない。一旦引くぞ!」
おい、おい。何を言っとるんだ?このおっさん達は?自分で自分の見せ場を潰してどうする?
ゲームの中でプレイヤーを目の前にして逃げても良いのはスライムだけだろう?
言うが早いか、ラグナとお助け隊の二人は私から距離を取り、退却の準備をする。
「カナエが失望するな。ラグナ」
私の声にラグナがピクリと反応する。
「こんな事であれば、最初からトルルに頼めば良かった。残念だ……と思われないか?」
ラグナがギロリとこちらを睨む!
性格は顔に出る。恐るべきは【海賊GAME】である。ラグナは見るからに気位の高そうな顔をしている。それにラグナやトルルの性格については事前に調査済みである。
「町で噂は聞いている。恐ろしいのはトルルのみ。戻って早く連れてくるのだな、トルルを」
「貴様ぁ……」
恐ろしい形相だ。ラグナは相当に怒っている。
マンガなどで主人公が我を忘れるほど怒り、実力以上の能力を発揮したりするが、あれは嘘だ。
怒り狂う人間は実力を発揮出来ない。
さあ、かかって来い、ラグナ。
所詮はお前はプログラム。本当の武道を知らない。
私が教えてやる。真の武術をな……
ビュンッ!!
ラグナは力任せに剣を振るって来る!!
ぬっ!思ったよりは速い!?
ギンッ!!
私はラグナの攻撃を長巻で弾く!!
お助け隊も援護とばかりに攻撃をして来るが、こちらは剣の構え方からしてなっていない。
キッンー!
新生お助け隊は、インテリ海賊の中でも選りすぐりの精鋭と聞いたが、こんなのが精鋭とは……インテリもさぞ頭の痛い事だろう。
私はラグナの攻撃に備えつつお助け隊を攻撃する!
ザクゥ!
「がはっ!!」
私の突きがお助け隊の胸を貫いた!!
「くそっ!」
ラグナが舌打ちをする。
怒り狂ってかかってくるか?それとも勝てないと悟って逃げる事を選ぶか?
ラグナは私との腕の差を感じ取ったようで、表情から怒りは消えていた。
残念だ、冷静になってしまったようだな。逃がさないように気をつけねばならない。
「……」
「……」
逃げる隙を伺うかと思ったラグナは、そんな様子は見せず静かに剣を構えた。
うむ、潔しだ。
構えも良い。
「……」
「……」
ラグナは静かにこちらを見ている。素晴らしい集中力だ。
「……」
「……」
私の流派は待ちの姿勢を得意とする。しかし、攻撃が不得手と言う訳では無い。
私は右前半身の構えからラグナに突きをお見舞いする!
ギンッ!!
やるな!!
ラグナは鮮やかにそれを左に弾く!
私はそれに逆らわない!クルリと長巻を回転させて刀身とは反対の柄の角でラグナを攻撃する!
ギンッ!!
ラグナは素晴らしい反射神経で私の柄による攻撃を弾く!!
ラグナは私の頭めがけて剣を振り下ろした!!
ガッチィ!!
私は長巻の柄の部分を横一文字構えて、ラグナの剣を受ける。
なかなかの剣さばきだ。
「やるな」
私はニコリと笑いながら言う。
「生意気な!」
ラグナは一度剣を上にあげ、横から私めがけて斜めに振り下ろす!
私は一度、摺り足で後ろに下がりながら、ラグナの剣を弾いた!!
そして弾くと同時に素早く前に出る!!
ラグナは突進してくる私の攻撃に備えるが、私は刀身を前には出さない。
長巻を斜めに構えたまま前に出たのだ!!
ギチィッ!!
私の長巻と、ラグナの剣が斜めに重なる!!
そしてラグナを、斜めに構えた長巻で力強く押した。
簡単に言えば体当たりみたいなものだ。
しかし、私は長巻を両手で持ち、ラグナは剣を片手で持っている。
武器に対する力の入り方が違う。武器がぶつかり合う瞬間にラグナは自身の剣の後ろに左手を添えたが、私の体当たりを受け切れる訳がない!!
ラグナは弾き飛ばされるように後ろに下がった。
そして私も後ろに下がる!!
下がり際に私はラグナの頭上に長巻を振り下ろす!!
私の渾身の振り下ろしだ!!
体当たりを食らって後ろに吹っ飛ばされるラグナがこれを避けられる訳はない!!
ガツゥッ!!
「がはっ!!」
私の長巻はラグナの脳天に直撃した!!
ズダッ!!
ラグナは気を失って地面にひっくり返る。
私の長巻は片刃の剣である。最後の一撃は峰打ちというやつだ。
私はラグナだけは命を助けた。
なぜか?ラグナが有能な航海長だから?
いや違う。答えは否だ。
ではなぜか?
それはラグナがなかなか男前な渋いおじさんだったからである。
「おじさんでも由紀は喜ぶだろうか?」
美青年では無いが、私に由紀の好みはいまいち分からない。
さあ、次はトルルだな。
どんな面かは知らないが、インテリを倒してトルルとやらをもらおうじゃ無いか。
由紀の為に……