虎穴に入らずんば……
どうやって乗り込むか?海賊の船だけあって港には停泊していない。
子分の乗り降りは小舟を漕いで近くまで行って、縄ばしごでも下ろしてもらうのだろう。
準備も無しに乗り込むのは不可能か?
私は翌朝になってから町で情報集めをする。私を探している海賊の名前が分かった。どうもインテリ海賊ファントムという名前らしい。
どんなプレイヤーか知らないが、恥さらしな名前だ。自分で自分をインテリと言ってしまったか?
私はインテリ海賊の情報を集めつつ、由紀の情報についても聞いて回る。
「ヤオラ?聞いたこと無いなぁ」
私は酒場の主人に聞くが有益な情報は得られ無い。
しかし情報を集めていくうちに、この世界の事が色々と分かってきた。
どうもそのインテリ海賊はこの辺りでは有名な海賊のようだ。
仲間も多く、それも強い者が多いらしい。
中でもやばいのがトルル?変わった名だ。他にラグナ、この二人は相当な実力者らしい。
ボーナスがあるからと言って、強い海賊を狙うのはリスクが高いか?普段ならリスキーな事に手は出さない私だが、一つ面白い情報を手に入れたのだ。
そのトルルというのが相当な美青年らしい。
「由紀が喜ぶな」
このゲームのヘルプに書いてあった。他のプレイヤーを倒せば、その子分を仲間に出来る可能性があると。
トルルを仲間にして由紀と合流しよう。そうすれば、彼女が喜ぶ。
後はどうやって、インテリを倒すかだが……
私が悩んでいると、好機はすぐにやってきた。
私が情報を集めている、この酒場がインテリの行きつけの店だと言う。
つまりここで待っていればいいのだ。
余談だが、プレイヤーがプレイヤーをゲーム・オーバーにして、ボーナスを得るには少し条件がある。
まずはモードだ。どうもこの【海賊GAME】には状況によってモードというものがあるようだ。そのモードが「戦闘」の状態の時に相手を倒さないといけないらしい。
少し意味が分かりづらいが、おそらく通常時に不意打ちを食らわしてゲーム・オーバーにしてもボーナスは貰えないのだろう。
それともう一つの条件は、プレイヤーがプレイヤーに直接手をくださないといけないようだ。
強い仲間が何人かいて、その仲間が他のプレイヤーを倒してもボーナスは得られ無い。無効のようだ。
ゲーム・バランス最悪と書いてあった割には、あまりプレイヤーに楽をさせないゲームのようだな。
今の話を総合すると……総合力で圧倒的に下回った相手を倒すか、もしくは自分の個人的なレベルが高ければ、一人で弱いプレイヤー海賊の中に潜り混んで、そいつがどこか他の海賊と交戦中に不意を突くのが一番良いだろう。
別に自分に対して「戦闘モード」になっていなくても、見ず知らずの海賊と戦っていて「戦闘モード」になっているプレイヤーにそっと近づいてゲーム・オーバーにするのが一番容易い方法である。
しかし、初心者プレイヤーではないインテリは、他のプレイヤーに対して警戒をしているはず。
私が嘘をついて、仲間になるのは難しいと思える。
「戦闘モードというのが厄介だな」
私は一人呟く。
出来ればインテリが一人になったところを狙いたいものだ。そして一対一で勝負を挑んで勝つ。
話は戻るが、どうもそのインテリはここの酒場にお目当ての女性がいるらしい。
だから、この港を拠点に活動して、この酒場によく通ってくるとの事だ。
私がこの酒場で張り込みを続けて三日目の夜、とうとう奴は来た。
外見の特徴は事前に確認をしている。背は高く顔は凛々しい。そしていつも笑顔を絶やさない三十歳くらいの男と聞く。
インテリは仲間を三人引き連れている。あの中にトルルやラグナと言うのはいるのだろうか?
多分、トルルはいない。三人の中に、そんな噂になるほどの絶世のハンサムはいないからだ。
インテリ本人は意外にイケメンであるが、しかし、これは信用ならない。プレイヤーは自分の見た目を好きにいじれるからだ。
もしかして周りがそう呼び始めたのかもしれないが、自分の事をインテリ海賊と名乗ってしまうような奴である。自分の見た目もナルシーな感じで選んでいるに違いない。
私は遠くの席からインテリの様子を伺った。
すると店の奥から美しい女性が現れて、インテリのテーブルに近づいて行く。あれがインテリのお目当ての女性だろうか?
私はこの酒場に三日も通っているが初めて見る顔だ。インテリが来た時だけ、表に出てくるとっておきの女性なのだろうか。女の私から見ても美しいと思える女性だ。
女性が現れるとインテリと一緒に酒を飲んでいた子分の三人は席を立った。
気を利かせて店を出て行くようだ。
私はいつも最悪の事態というものを想定している。
今、私の考える最悪のシチュエーションというのは、既にインテリに私の存在がばれている事だ。
可能性は高いだろう。ここはインテリの行きつけの店であり、私はここでインテリの事を聞いてしまった。
酒場の主人が上得意であるインテリに、彼を嗅ぎ回っている者がいる事を密告していないとも限らない。
しかし、インテリが私の事を気にしている素振りは無い。全く私の存在には気づいていないようにも思える……
私はインテリの子分三人が店を出てしばらくしてから店を出ることにする。
通りすがりにチラリと見ると、インテリは酒を飲みながらお目当ての女性とにこやかに話をしていた。
お前に恨みは無いが、たまたま美男子の子分が自分にいる事を不運に思え。お前はこの後、私がゲーム・オーバーにしてやる。
私は用心しながら店を出た。店の外をインテリの子分が囲んでいる事は無かった……
私が通りに出て辺りを見ると、子分三人はかなり向こうの角を曲がる所だ。
店の外に出たフリをして、外で待機する訳でも無いようだ。私の存在にインテリは全く気づいていないのか?
私は走る。子分三人を追うのだ。
どこかで子分三人が待ち伏せる。私を誘き寄せる手かもしれないが、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。
子分三人が向かう方向は港の方向では無い。どこかで飲み直すつもりか?
それにしては人気の少ない方へと歩いている様にも思える。
私がこの辺りで、奴らを叩き伏せようと、追いかけるペースをあげた所で三人組は暗い路地裏に入っていく。
私は後ろを見た。インテリやその仲間が後をつけてきている気配は無い。
私が店を出た事に気付かなかったか?
私が路地を曲がった所で案の定……三人組は私を待ち構えていた。
そして私を見てニヤニヤと笑っている。
やはり私の存在には気づいていたようだな。
しかし余程馬鹿なのだろう。ここにたくさんの仲間を配してはいない。
「お前か?ウチの船長の事を嗅ぎ回っているのは?」
渋い顔をした三十代後半の男が言う。
事前に私が仕入れた情報ではコイツが剣の腕も優れているラグナという名の航海長だろう。
他の二人はおそらくインテリが選び抜いたという新生お助け隊だ……センスの無い名だな。
「痛い目にあってもらうぞ」
そう言うと、新生お助け隊の一人が剣を構えた。
ふうー、コメントすらセンスが感じられない。
「残念だな」
私はそれだけ言って自分の武器を構える。