私の剣を捧げましょう
周りを囲む、私の仲間達が憤る!!エッダリなんかは、いの一番に剣を構えて飛び込んで来そうだ。
私の仲間達の動きに合わせてトゥルルも剣を構えた!
「狼狽えるなっ!」
私は大声で叫ぶ!
ギンッ!!
そして、オーディの追撃をかわす!これが「オーバー・ヒート」の素晴らしさだ。傷を受けても動きが悪くならない。
キュイーンッ!!
さらに攻撃をかわす!!
そして……
キンッ!!
オーディの攻撃を弾く……
おっ!?
今の攻撃は弱かったぞ!!
見るとオーディの顔がみるみる青ざめている!!
オーディの奴、とうとう「海賊力」が切れたようだな。
オーディは慌ててトゥルルの方を振り向いて叫ぼうとする。
「トゥルル!助けろ……」
させるかっ!!
ザクゥーッ!!
私は不用意にトゥルルの方を向いたオーディを斜めに叩き斬った!!
「うがぁっー」
彼は剣を持っていない左手を上げて、トゥルルの方に延ばす!
そして静かに……
ドサッ!!
甲板の上に倒れた……
トゥルルは目の前で自分の船長がやられたのだ。複雑な表情でこちらを見ている。
……トゥルルはどうするつもりだ?ここで彼とも戦いになり、トゥルルを倒すハメになったら、私がオーディとサシで勝負した意味が無くなる。
トゥルルは一つため息をつくと、剣を構えて私の方へ歩いて来た。
やはり、掛かってくるのか……
私とオーディの勝負がついたというのに、トゥルルは私に向かって来ようとする。周りを囲む私の仲間は、怒りを露わにトゥルルに向かって行こうとした。少し、私には彼らの怒りポイントが分からない。
しかし、ここでトゥルルと私の仲間が戦っては意味が無い。
仕方ない。あれを言うか。人の波をモーゼの十戒の様に割るのと同様に、私には言いたいセリフがあった。
「野郎共!!手出しはするな!!」
私の声で仲間が静まった。
トゥルルは少しずつ、こちらに近づいてくる……
彼に対して私は言う。
「トゥルル、オーディ君の仇を討ちたいのですか?」
「……」
「私とオーディ君は正々堂々と勝負して、私が勝ちました」
トゥルルは剣を構えて、近づいてくるのを止めない。
「あなたがオーディ君の仲間と知らず、迎え入れた日にも言いましたが……」
私はトゥルルににっこりと微笑みながら言う。
「あなたの剣の腕は素晴らしい。あなたにはぜひ仲間になって頂きます」
トゥルルは私の話を眠たそうに聞いている。あと少しで彼は私に剣の届く距離に入ってくる。
私は自分の剣は下げたままだ……
トゥルルが私の目の前で止まった。彼の踏み込みの速さであれば、一瞬で私の喉を、あのエストックで突き刺す事が出来るだろう。
トゥルルは自然体で剣を構える!なんと言う威圧感だ?私の喉が彼のエストックで貫かれる映像が頭に浮かぶ。
オーディのように性格にムラが無いだけ、トゥルルの方が何倍も手強いかもしれない……
私は剣を下にさげたままの体勢で彼の攻撃を待つ。
単純にオーディに勝ったからと言って、トゥルルが仲間になる訳では無いようだな。パウルの子分達は案外簡単に私についてきてくれたが、船長の性格や、船員本人の性格もあるのかもしれない。
私とトゥルルは神経と研ぎ澄ましたまま対峙する。
「……」
「……」
勝負は一瞬だ。
彼に残された道は無い。自分がずっとついてきた船長は死に、周りは百人の敵に囲まれている。
仮に私を倒したとしても、自分は助からないだろう。
結局は周りの百人の敵に八つ裂きにされる。
つまり、彼は一切防御を考えなくて良い。攻撃にだけ全てを注ぐだろう。
「……」
「……」
突きを防御するのに大切な事は攻撃の起こりに素早く反応する事だ。
起こりを見逃が……
ヒョンッ……
しまったっ!!
気付いた時には彼のエストックは私の胸を貫く直前の場所まで接近していた!!
私は身を捻ってそれをかわそうとするが……
ズシュッ!
トゥルルのエストックが私の服と胸を斬り裂く!!
しかし!!
彼が攻撃に全神経を集中させていたように、私も防御だけに全神経を集中させていた。
トゥルルの剣は私の胸の肉を斬り裂くが致命傷となる程では無い。
いつもながらトゥルルの踏み込みは凄い!!
身をよじり、辛うじてトゥルルの剣をかわした私の身体の横をトゥルルの身体が通る。
私は身をよじった勢いに任せて、振り向きざまにトゥルルの頭に手刀をお見舞いする。
トッオーンッ!
初めて会った時の戦いと結果は同じであった。
三顧の礼では無いが、私はトゥルルに言う。これを言うのは三回めである。
「あなたの剣の腕は素晴らしい。あなたにはぜひ仲間になって頂きます」
自分の渾身の突きを交わされたのだ。それも自分の最も得意とする武器で。
「……」
トゥルルは振り向いて眠たそうな目でこちらを見ている。
そしてしばらく考えてから言った。
「分かりました。仲間になりましょう。私の剣の腕をあなたに捧げましょう」
これが今後、この【海賊GAME】で最も頼りとなるトゥルルが仲間になった瞬間であった。