対決!カナエ対オーディ
オーディは悔しそうな表情で私の話を聞いている。
「もう良いですよ。スノラさん、エールさん。出てきて下さい」
私の呼び掛けに応じて、敵の船からスノラとエールが顔を出す。
そして、その横には最初に和を乱して敵の船に飛び込んでいった第一部隊の数人も顔を出した。
そうなのだ。ここにいるのは皆、私の仲間で、向こうの船を指示していたのはスノラとエールであった。
私が最初に二人に与えた秘密の任務とはこれの事だったのだ。
みんな自作自演で戦い、やられたフリをしていたのだった。
「くそー」
オーディは歯噛みをして悔しがる。
私はちょうどここで「海賊力」が切れたので、「ピース・オブ・エイト」を交換して「海賊力」を最大の「15」にした。
おそらく、オーディの残りの「海賊力」は「3」程度……
「みなさん、無闇にオーディにはかかって行かないで下さい……」
「……」
「……しかし、彼がもし剣を持っていない方の手のひらを見たら飛びかかれる準備をして下さい……」
私は慎重に仲間に指示を出す。
「……そして私が掛け声をかけたら一斉に飛び掛かってください」
私はオーディが簡単には「ピース・オブ・エイト」を「海賊力」に交換出来ないようにする。
こちらは百人もいるのだ。一斉に掛かっていけば、二人を討ちとれるだろう。しかし、こちらも被害を最小限に抑えたい。
オーディとトゥルルは背中合わせに立ち、剣を構えている。
彼は焦っていた。もうじき、自分の海賊力が切れる事を知っているのだろう。
しかしオーディにはもう打つ手が無い。こんな状況に陥った人間は自暴自棄になるものだ。
この【海賊GAME】には潔い事に救済措置が無い。途中でセーブのような機能が無いのだ。
その上、ビックリする事に最初からやり直すことも出来ない。一度ゲーム・オーバーになると、もう二度とこのゲームはプレイ出来ないのだ。
そんなゲームがこの世にあるのか?ゲーム開始時にこの【海賊GAME】用のアカウントを作成しているので、もしかして違うアカウントを作り直せば、またこのゲームは出来るかもしれない。
しかし、その場合はまた最初のレベル1からやり直すことになる。
キャラクターを育てるように、一生懸命自分を育てた者にはたまったものでは無いだろう。
しかし、ゲーム・オーバー時の救済措置が皆無かといえば、そうでは無い。
「羅針盤」だ。
究極のレア・アイテムである。なんとこれを持っていると、ゲーム・オーバーになった時点から、やり直す事が出来るらしい。
そして、このアイテムの凄いところは、仲間も一緒に復活をする事だ。これは凄い事である。自分の育てた仲間とゲームをやり直す事が出来るのだ。
この誰もが欲しがるレア・アイテムはリアル・マネーで買う事が出来ると書いてあった。
私はゲームに課金したいとは思わないので興味は無いが、とんでも無い値段であった。普通の感覚の持ち主であれば、そうそうその金額はゲームに払わないだろうと思える程の値段である。
極々稀に、ゲーム中に手に入れる事も可能なようなので、出来れば自分も手に入れたいものである。
話は戻るが、つまりこの【海賊GAME】ではゲーム・オーバーはイコール、ゲーム内の死と同じである。
オーディは狂気に満ちた目でこちらを見ている。精神的に追い詰められているようだ。トゥルルと一緒に、自爆覚悟で掛かって来られてもかなわない。
「オーディ君。あなたにチャンスをあげましょう」
私はオーディに言う。
「チャンスとはなんだ?」
オーディは血走った目で私に聞いてくる。
「一対一で勝負をつけましょう」
「な、なんだと!?貴様、もうすぐ俺の海賊力が切れるのを知っていて……」
「では座して死を待ちますか?」
私はにこやかに言う。オーディ、君には選ぶ権利はないのだよ。
「……」
オーディは周りを見る。周りを百人の敵に囲まれているのだ。かなりの圧迫感だろう。後ろの方にはスノラやエッダリのような呑気な人相の者もいるが、前面は全てパウルの元子分である。彼らが極めて凶悪な顔で二人を睨みつけている。
「くそっ!!」
「あなたの方が強いのでしょう?本気が出せるうちに私と勝負した方がいいんじゃ無いですか?」
「勝負してやる!」
「よろしい。それでこそ男です。」
私は一度、二人の包囲の輪を広げる。そして私が輪の中に入り、トゥルルには離れるように言った。
オーディが一対一での戦いを飲むと言ったのだ。トゥルルは素直に後ろに下がる。
なかなか体力があるようだ。音楽家ヴェトラは素晴らしい曲をまだ吹き続けている。
「さあ、舞台は整いました」
オーディの残りの「海賊力」は「2」か「3」ぐらいだろう。死にもの狂いになった彼の攻撃を凌げるだろうか?
仮に致命的な傷は受けなくても、私の「体力(HP)」が「0」になってしまっては、「海賊力」が切れた時に私も一緒にゲーム・オーバーになってしまう。
「おらっ!!」
時間の惜しいオーディはいきなり派手な攻撃を仕掛けてくる。
ギンッ!!
「くっ!!」
私はそれを辛うじて弾いた!
やはり力の差が有り過ぎだ。一対一で勝負を挑んだのはまずかったか?
「らっ!!」
オーディにとっては時間との勝負だ。逆に時間内であれば、彼は体力が減らない。思い切り攻撃をした方が良いと思ったのだろう。
しかし、そこに隙が生まれる。こちらは時間内を逃げ切ればいいのだ。オーディの粗い攻撃を交わす。
ギンッ!!キュイーン!!
くそっ!!小癪なフェイントを入れてきたな。私は左腕にかすり傷を受ける。
本当にまずい。こんな傷でゲーム・オーバーにはならないだろうが、やはり油断は出来ない。
ギチィッ!!
くそっ!!こちらが攻撃してこないだろうと思い、攻撃だけに全神経を集中している。
私は攻撃をするつもりは無くても、攻撃の姿勢を見せる。しかし、オーディは構わず力一杯攻撃をしてきた。
これが「オーバー・ヒート」の悪いところだ。「体力(HP)」が「0」になる程の傷さえ受けなければいい。だから後先考えず力一杯攻撃出来るのだ。
しかし、この力の差で私が一撃でオーディを戦闘不能に陥らせるようなダメージを与えるのは難しい。
仕方なく、私は防御に徹する。
ギチィッ!!ギンッ!!
駄目だ。まずい。圧倒的すぎる!!
ギンッ!!
オーディは目を血走らせて攻撃をしてくる。
百人の仲間が私たちの闘いを見守るが、皆、私を心配そうに見ている。
キュイーン!!ギンッ!!ギンッ!!
私は防御の弾かれ方が大きくなる!!
フェイント!?
頭に血を登らせて闇雲に攻撃をしてきているように見えたオーディが突然、フェイントを入れてきた!!
私はそれを辛うじて弾く!!
しかし次の攻撃に反応できない!!
オーディは私の胸を狙って突きを繰り出してきた!!
私はその避けにくい攻撃をどうにか身をよじってかわそうとする。
ズシュッ!!
「ぐぅっ!!」
しまったっ!!
オーディの剣が私の胸をかすかにえぐる!!