タイトルはクライマックス
「何が、残念だったんです?」
私はニコニコと笑いながらオーディに聞く。
これにはオーディも変な顔をする。
「……お前、馬鹿だろ!この状況が分からないのか?」
「この状況とは?」
私のこの質問にオーディはさらに目を丸くする。
「お前に勝ち目は無い!観念しろ!!」
「ヴェトラさん!!」
私は大声で呼ぶ!!
「は、はいっ!?」
いきなり、大声で自分の名前を呼ばれた音楽家ヴェトラは、びっくりした顔で返事をする。
ヴェトラにとっては、仲間に入った海賊が壊滅。そして一緒に仲間になったとオーディとトゥルルの裏切り、びっくりすることが目白押しだ。
青い顔をして様子を見ていたところで、私にいきなり名前を呼ばれたのだ。びっくりして当然だろう。
「曲を一曲お願いします」
「えっ、あ、はい」
ヴェトラは素直に返事をして、トランペットを構えた。
「タイトルはそうですね……クライマックス!そのような曲をお願いします」
ヴェトラは私の曖昧なリクエストに即興で曲を吹き出す!
いつ聴いても素晴らしい。自分が言うのもなんではあるが、海賊にさせるのがもったいない。
船上にはヴェトラの重厚感のあるトランペットの音が鳴り響く!!
トランペットという楽器がそうなのか?それともヴェトラの技術力なのか、彼の演奏は遠達性が高い。場所は海の上で広い船上だというのに、遠く離れたヴェトラの演奏がビリビリと私の全身に伝わる。
曲調は早く、いかにもクライマックスに相応しい軽快なリズムを刻んでいる。
「く、く、く。この曲のタイトルを俺が決めてやるよ」
オーディは楽しそうに言う。
「ほう」
この曲のタイトル?
「いいのを思い付いた」
オーディは、よほど良いタイトルを思い付いたのか、得意のしたり顏で言う。
「奇遇ですね。私もこの曲については良いタイトルを思いつきました」
「く、く、く。そうか」
「同時に思い付いたタイトルを言ってみますか?」
「そうだな。それは面白い」
オーディは、この自分が絶対的に有利だと思える状況で、私を小馬鹿にした表情で言う。
オーディのすぐ横にはトゥルルが剣を構えている。
「では、同時に言いましょう……この曲のタイトルは……」
私とオーディの二人が声を揃えて言う。
「終焉!」
素晴らしい。
私とオーディはこの曲に、同じタイトルを思い付いたようだ。
「はーははははっ」
オーディは笑う。
いったい、何がおかしいのか?
ちなみに終焉とは命が終わる事。つまり死ぬ事である。この【海賊GAME】の場合は、ゲーム・オーバーこそが終焉だろう。
「まさに、終焉!お前が迎えるものこそが終焉だ!!」
ヴェトラの曲が鳴り響く中、気持ちが高ぶるのかオーディは叫ぶ!!
「残念ですが、終焉を迎えるのはあなたです」
私の今の海賊力は「1」、オーディは「5」。よくも私の時間稼ぎに付き合ってくれたものだ。
「なんだと?俺たち二人に勝てるつもりか?」
オーディは笑いながら言う。
「勝てるつもりですが……」
私が言うとオーディはゲラゲラと笑いだした。
「お前一人で、俺たち二人に勝てる訳が無いだろう!?一対一でも俺に勝てないというのに」
「二対一ではないですよ」
私はニコニコしながら言う。
オーディは周りを見る。そして隅で縮こまっている新人を見て言う。
「あそこの半人前どもの事か?今さらあいつらがなんだ?」
「……」
「今さら、五人や十人、お前の仲間が増えたところで、状況は覆せないぞ」
「まあ、五人や十人では無理でしょうね」
「く、く、く」
「でも、百人だったらどうでしょうか?」
「なんだと?」
ちょうど良く、ヴェトラの演奏が鳴り響く!!
私は大声で言う!
「包囲!!」
すると、周りで倒れていた私の仲間達が立ち上がった!!
「な、な、な……」
オーディはびっくりした声をあげる。
立ち上がった仲間たちは凄い勢いでオーディとトゥルルを囲んだ!!
「しまっ……」
オーディは包囲網を抜けようとするが後の祭りだ。百人の人間に十重二十重に囲まれているのだ。突破の最中に背後を取られるに決まっている。
結局、オーディとトゥルルは私の仲間達に囲まれてしまう。
「さあ、今度こそ観念してもらいましょうか?オーディ君」
私は言う。
「……ど、どういう事だ?なぜみんな生きている?」
「言ったでしょう?奥の手は最後に出すものと」
「……」
「……これは自作自演です。元々、皆、私の仲間だったのですよ」