カナエ、絶体絶命
なんという事だ……
まさか、トゥルルとオーディが仲間だったとは……
「く、く、く、どうした?」
オーディは笑いながら私に言う。もう勝利を掴んだかのような口ぶりだ。
「カナエよ。そろそろ観念したらどうだ?」
オーディとトゥルルはゆっくりとこちらに近づいてくる。
うむ?
トゥルルの握っている武器が違うな。
あれは私との戦いで使っていたサーベルという武器では無いぞ?あの形はエストックという武器だな。
エストックとは、刺突がしやすい様に設計された先の尖った剣だ。もちろん斬撃も行える様に刃もついている。
そういえば、私との戦いでもトゥルルは突きが得意そうであった。
トゥルルの愛用の剣はエストックだったのか。あの時は本当の実力を隠す為に、あえて得意では無い武器を使ったようだ。
私はトゥルルのあの鋭い突きを思い出し、背筋に冷たいものを感じた。
さっき、トゥルルにやられたお助け隊の一人は完全に戦闘不能である。
甲板の上で息絶えている。心臓を一突きだ。
残りの二人は距離を置いて、オーディとトゥルルを囲んでいる。
どうするか?
私 対 オーディ
お助け隊二人 対 トゥルル
という図式になるのだろうか?
かなり不利ではあるが仕方が無い。
お助け隊の二人がどれだけ粘ってくれるかが鍵だな。
「お助け隊の二人は、トゥルルの方をお願いします……」
「分かりました」
「……とにかく時間を稼いで下さい。無理はしない事」
私は言うが、それに対してオーディは鼻で笑う。
周りを見ると、私の味方はほぼ全滅。オーディとしては時間を稼いだところでどうなるものでもないと思ったようだ。
「馬鹿め。勝てると思うか?」
オーディはそう言うと私に攻撃を仕掛けてくる。
私は「オーバー・ヒート」を唱えてそれを受ける!!
ギッーン!!
なんてバワーとスピードだ!当たり前だが、やはり強いな。とても勝てる気がしない。
想像では、オーディの「海賊力」は残り「16」ぐらいだろうか?
オーディが「海賊力」を節約している様子は無い。こちらのレベルがかなり低い事を知っているのだろう。
だから節約の必要もないと思っているのだ。
私は神経を集中して防御に徹する。
ギッチィーン!!ガツッ!!
「どうした!?手も足も出ないか?避けているだけでは勝てないぞ!!」
全くもってその通りだ。
お助け隊の方もかなり不利な状況だ。二人掛かりで挟み撃ちにはしているが、かなり距離を取って背後からしか攻撃をしないという戦法をとっている。
しかし、あのトゥルルを足止めしているのだ。お助け隊の二人はよく頑張ってくれていると言える。
私の残りの「海賊力」が「12」でオーディが「16」、このままでは私の方が先に「海賊力」が切れる。
そして、とてもでは無いがオーディと戦いながら、スマホを操作する事は出来無い。
つまり、このまま「海賊力」が切れれば私の負けだ。
ギッチィーン!!ギンッ!!
私は必死にオーディの剣を弾く!!
キンッッ!!キュッイーン!!
オーディは、まだ本気で私を仕留めようとはしていない。
このあたりは手慣れたものだな。何人も新人プレイヤーをゲーム・オーバーに追い込んだのだろう。よく心得ている。
「オーバー・ヒート」発動時は「体力(HP)」が「0」にならない。つまりゲーム・オーバーにならない。
そんな時に頑張って攻撃をして、反撃を食らい、自分まで「体力(HP)」が「0」になってはたまらない。
だから狙い目は「海賊力」が切れた時だ。
そのため、オーディは、まだ本気では攻撃をしてこないのだ。
ガッツィーン!!
そういう理由で、私も力の差がかなりあったとしても、どうにかかわす事が出来た。
私とオーディ、お助け隊とトゥルルの戦いは延々と続く。
もうそろそろ私の「海賊力」が「5」でオーディの「海賊力」が「9」くらいになるだろうか?
全く息を抜けないと言うのも厳しいものだ。
私は「体力(HP)」のステータスが低いので、少しの傷でもゲーム・オーバーになってしまうかもしれない。
傷を受けないように、私は必死にオーディの攻撃をかわすが……
しかし!!
ザクっ!!
「うがっー!!」
しまった!!
お助け隊の一人がトゥルルにやられてしまったのだ!!
遠巻きに挟んで二人掛かりで牽制をしていたのだ!!だから時間が稼げただけである!!
一対一で、トゥルルに対抗出来る訳がない!!
ズシュッ!!
「がはっ!!」
最後の一人は一瞬にしてトゥルルにやられてしまう……
「ひゃははははっ!」
それに喜んだのはオーディだ。
いかに「オーバー・ヒート」発動時とはいえ……腕や足を切り落とされたり、心臓を一突きされれば、戦闘不能になってしまうだろう。
そうなればステータスMAXも何も関係ない!!
オーディはニヤリと笑い、私への攻撃の手を休める。
お助け隊との戦いに終止符を打ったトゥルルは、尖った切っ先が不気味に光るエストックを握りしめて、ゆっくりとこちらにやってくる。
その薄気味悪く光るエストックからは血が滴り落ちている……
「カナエよ。残念だったな」
オーディは勝ち誇って言う……