奥の手は最後に出すもの
ギッチィーン!!
オーディのカトラスと私のシャムシールが交差して火花を散らす!!
「くそ、いつ分かった?」
オーディとしては、仲間のフリをして私の横に立ち、不意を突くつもりだったのだろう。
しかし、オーディの剣を私は受けた!私がオーディはプレイヤーだと分かっていたから受けられたのだ。
そういう楽しみ方もあるかもしれないが、余程の事がない限り、プレイヤーが正体を隠して、他のプレイヤーの仲間になる事はないだろう。
であれば、オーディは「オーバー・ヒート」発動時のMAX値を上げる為に……他プレイヤーを狙う為に仲間になったのだ。
つまり、私を倒す為に仲間になった訳だ。
ギッチィーン!!
まずいな。
かなりのパワーだ。スピードも速い!!さすがはステータスが「71」もあるだけの事はある。
【海賊GAME】の「HELP」には……他のプレイヤーをゲーム・オーバーにした時。または特殊イベントをクリアした時にステータスのMAX値が上がると書いてあった。
どれだけ、他のプレイヤーを倒したのか、オーディのMAXは「71」だ。それに対して、私は「60」。
このままでは、とても太刀打ち出来ない……
「あなたがプレイヤーだとは最初から気付いていましたよ」
ギンッ!!
私はオーディの強烈な突きをシャムシールで弾きながら言う!!
「なぜ、俺がプレイヤーだと分かった!!」
「あなたはこのゲームのキャラクターが、知らない事を知っていました……」
「どういう事だ?」
オーディの問いに私は説明する。
この【海賊GAME】はリアルを追求する。プレイヤーが楽しめるようにと思っての事なのか、海賊の黄金時代と言われる十七世紀後半から十八世紀初頭を忠実に再現しているのだ。
なので、ゲームのキャラクターには皆、十八世紀までの知識しか無い。
しかしオーディは知っていたのだ。十八世紀の人間が知らない事を。
「なに?俺を仲間にする為に話をした時の事か?」
オーディは言う。
「そうです」
「そんなはずは無い。地動説も壊血病も、十八世紀には知られていた」
オーディは言った。
「そうです。知られていました」
「では、なぜ……」
オーディは不思議そうな顔で私に聞く。
「十八世紀の人が知らないのは、壊血病の予防法です」
「それは俺も知らないと答えたはずだ」
そう、オーディは壊血病に効く食べ物を知らないと答えた。
「そうです。十八世紀の人間は壊血病に効くのがビタミンCを多く含んだ食品とは知りません」
私はオーディの強烈な攻撃に耐えながら言う。
「では、なぜ俺がプレイヤーだと分かったんだ!?」
「あなたは私が、レモンに豊富な栄養素は何ですか、と聞いた時なんと答えましたか?」
「……ビタミンC……まさか?」
オーディは驚きの表情で言う。
「そうです。ビタミンという栄養素が発見されたのは……二十世紀に入ってからです」
ビタミンと言う栄養素が発見されたのは1900年頃。だから、十七、八世紀の人間であるこの【海賊GAME】のキャラクターが、ビタミンという言葉を使うのはおかしな事だ。だから私はオーディがプレイヤーだと分かったのだ。
「くそっ!!」
ガッチーン!!
オーディは悔しそうに力一杯、私に剣を振り下ろしてくる!!
私はそれを辛うじて受け止めながら言った。
「さあ、観念してもらいましょうか?」
「馬鹿め!!言える立場か!!」
オーディは私を馬鹿にしたような目で見ながら言う。
それはそうだろう。確実に向こうの方が強いのだ。観念しろも何も無い。
さらには、こちらの味方は、どこの誰とも分からない海賊にやられて、ほとんどが船上で倒れている。全滅寸前なのだ。
そういう意味では、オーディは絶妙のタイミングで出てきたと言える。
レベルは「16」と表示されていた。「海賊力」も「26」ある。
こちらが壊滅寸前なように、どこの誰とも分からない敵の海賊も壊滅寸前だ。
オーディとしては、私に不意打ちを食らわせて戦闘不能にすれば、後は「オーバー・ヒート」を使って、ここにいる全ての者を制圧して悠々と陸地に戻れただろう。
ギンッ!!
「お前、馬鹿だろ!!」
オーディは私をさも馬鹿にしたように言う。
「俺をプレイヤーと見破っても、ただそれだけだ!!対処出来なければ意味が無い!!」
確かにその通り。
このオーディは当たり前の事を、したり顔で言う若者だな。
「オーディ君。奥の手は最後まで取っておくものです」
「なんだと!?」
私は言う。
「もういいですよ。出て来て下さい。お助け隊」
「オ、オタスケタイ?」
オーディはびっくりした顔で言う。
……やはり、「お助け隊」はおかしかったか!?
すると、三人の男がマストの陰から疾風のように現れる。
私が選び抜いた三人はものすごいスピードでオーディに接近して連続攻撃を仕掛ける!!
キュッイーン!!ギンッ!!キンッッ!!
「なっ!なにっ!!」
さすがのオーディもこれにはたじろいだ。
オーディは甲板の上を駆け回り、お助け隊三人の攻撃を凌ぐ!
いかに「オーバー・ヒート」を発動しても、頭の後ろに目はつかない。
背後からの攻撃は避けられないだろう。
お助け隊の三人はオーディの後ろ後ろに回り込もうとする。
これは私が三人に指示した事だ。私が一対一で手こずる様な敵が現れた時、その相手をお願いするかもしれません。
その時は周りを囲んで、出来るだけ背後から攻撃をする事。逆に前からは決して攻撃をしないで下さい。
三人の強者に囲まれて、後ろから攻撃される。これではいかに「オーバー・ヒート」でも対抗しようが無いだろう。
しかし、三対一だから均衡が保たれているとも言える。周りを囲んで、後ろからの攻撃に徹しなければ、「71」との力の差は埋められない。
もし三人の内、一人でもやられれば、全てが終わる……
そこから総崩れになるだろう。
私は今の内に「オーバー・ヒート」を解除して、「海賊力」を節約する。
オーディの残りの海賊力はおそらく「23」ほどだろう。
私はたぶん今「12」ぐらいだ。
パウルを倒した時に私はレベルが上がって、今は海賊力の最大が「15」である。
しかし、「23」と「15」……この差は大きい。
私は今かなり「ピース・オブ・エイト」を所持しているので、「海賊力」が尽きてもまた「海賊力」を「15」追加出来る。
しかし、それはオーディも同じ事である。
だが、「ピース・オブ・エイト」を「海賊力」に交換する時はスマホを操作しなければいけない。
あわよくば、オーディに「ピース・オブ・エイト」を交換する作業の隙を与えず、倒したいものだ。
ちなみに、一回の戦闘中に「ピース・オブ・エイト」を「海賊力」に交換できる回数は一回だけのようだ。
まあ、そういう制限をつけないと延々と「ピース・オブ・エイト」を「海賊力」に交換する者が出てくるだろう。
ギンッ!!ズシュ!!
よし、やった。
お助け隊が、あのオーディにかすり傷を与えた!
素晴らしいぞ!!
さすが三人とも相当な実力者だ。オーディの実力を感じ取って、正面からは一切攻撃をしない。
お助け隊はオーディをジワジワと追い詰める!!
そして、オーディを船の縁に追い詰めた!
素晴らしい!
船の縁に追い詰められたオーディはどうする事も出来ないようだ。
しかし、お助け隊の三人も無理にオーディに飛び込んではいかないが、それで良い。
効果は十分にある。それはオーディが「オーバー・ヒート」を解除出来ないからだ。今、オーディは「海賊力」を消費している。
そして、私は消費していない。
もう、オーディの「海賊力」は「19」ぐらいだろう。このまま、周りを囲んだまま、「海賊力」が尽きてしまえば良い。
「くそっ!!」
オーディはしっかりと剣を構えて、お助け隊の攻撃に用心しながら私を睨む。
「オーディ君。もう勘弁してはどうですか?」
私の言葉に対してオーディは不敵な笑みをこぼした。
なんだ?
「お前はさっき、奥の手は最後まで取っておくものと言ったよな?」
「確かに言いましたが……」
「俺も出すよ。奥の手を……」
なんだ?オーディの奥の手とは?もう「オーバー・ヒート」は使っているし、仮に「ピース・オブ・エイト」を交換して、「海賊力」を増やせたとしても、現状は覆せない。
「もう、いいぞ。トゥルルー!!」
オーディは叫ぶ!!
な、なんだとっ!?
風のようにオーディに駆け寄る影があった!!
まずい!!
「お助け隊!!包囲を解いてください!!そして逃げて下さい!!」
私は大声で叫ぶ!!
ズシュッ!!
「がぁぁっー!!」
お助け隊の一人がやられた!!
やったのはあのトゥルルだ!!
「船長。大丈夫ですか?」
お助け隊の一人を血祭りにあげたトゥルルはオーディに聞いた。
しまった……
トゥルルとオーディは仲間だったのか……