劣勢
やはり航海長ラグナの操船の指示は素晴らしい。
卓越した操船技術と指示で獲物の船に、どんどんとこちらの船を近づけていく。
私は相手の船の形がしっかりと視認出来るようになってから言う。
「第一部隊から第三部隊までは移乗攻撃の準備をして下さい」
今の第一部隊から第三部隊は、以前の落ちこぼれのおっさん達で構成された部隊とは破壊力が違う。
皆、元パウルの子分達なのだ。海千山千の強者ばかりである。
「第四部隊は接舷の準備をして下さい」
第四部隊は元の生活に戻る事なく、残ってくれた落ちこぼれのおっさん達で構成されている。
そして第五部隊はほぼ非戦闘員で構成する予定だ。
航海長ラグナは、なかなか剣も使えるようだが有能な人材なので、この第五部隊に入ってもらった。
私は最初は高みの見物をさせてもらうつもりだ。
このメンバーであれば、どんな船が相手でもそうそう遅れを取ることも無いだろう。
こちらの船と、向こうの船が引っ掛けフックの届く距離に近づく。
すると!!
「おっー!!」
「うぉっー!!」
あちらの船から雄叫びが聞こえる。
こちらの船も、あちらの船もジョリー・ロジャーを掲げていないが、どちらも海賊だった訳だ。
こうなると船の接舷は早い。お互いに相手の船に接舷をしたいのだから、邪魔は入らない!!
ガッシィーン!!
接舷の瞬間に船が大きく揺れる!!
私としては、相手が海賊の場合、敵船に乗り込むか、乗り込まれるのを待つかで迷う。
敵の船に乗り込むのはリスクがあるが乗り込まれれば、こちらの船がかなり破壊されるからだ。
むっ?
第一部隊の数人が勝手に敵船に乗り込んでしまった。
まずいな。やはり生粋の海賊だ。自由すぎる。
向こうの船とこちらの船では船の大きさがかなり違う。あちらの船の方が甲板が高い位置にあるのだ。
私のいる場所からは向こうの船の上が見えない。
こちらから向こうに乗り込んだ第一部隊の数人は、引っ掛けフックの紐をよじ登るようにして敵船に乗り込んで行ったのだ。
向こうの船から剣戟の音と、人の呻き声が聞こえてくる。
優勢なのか?劣勢なのか?
どうする?第二部隊と第三部隊も突撃させるか?
私が考えていると、向こうの船から敵が乗り込んでくる!
大胆だな。
「第二部隊と第三部隊は今飛び込んで来た者達を迎え撃って下さい」
キュッイーンッ!!ギンッ!!
船内を剣戟の音が響く!!
乗り込んで来た相手と、こちらの部隊は同じぐらいの人数である。しかし、こちらは徐々に押され始める。
すると新たに相手の船から敵が乗り込んで来た!
どういう事だ!?
もう、向こうに乗り込んだ第一部隊の数人がやられたのか?
早すぎるだろう!?
乗り込んで来た敵海賊はニタニタと面白そうに笑っている。
ニタニタするな。馬鹿者。
新しく飛び込んで来た敵海賊は、こちらの第二部隊と第三部隊に飛び掛かってくる。
まずいな。
元々押され気味であった第二部隊と第三部隊は圧倒的不利へと追い込まれた。
私は周りをキョロキョロと見回す。私は船首の中央あたりに立っているのだが、敵の船には左舷にて接舷している。
そして七人の新人は船首の右舷側にいた。隅の方で見ているように言ってあるのだ。
彼らも私たちの主力が第一部隊から第三部隊までである事を知っている。彼らから見ても私たちがかなり不利な事は分かるだろう。
完全な非戦闘員であるヴェトラは青い顔をしてガタガタと震えている。初めて殺し合いを見る者であれば、あれぐらいが普通だろう。
しかしトゥルルは今お昼寝から覚めたばかりというような表情で、眠たそうな顔をしている。この若者は何を考えているか全く分からない。
オーディは深刻な顔はしているが怯えた様子は無い。
あたりはかなりの乱戦となるが、目に見えて、味方はバタバタと倒れていく。
あまり使いたくは無かったが、私は「オーバー・ヒート」を発動する。
そして、二つ用意してある剣の一本を握った!!
「いくぞ!!お前たち!!」
私は一人、また一人と敵を倒す!!私の剣に触れた者は、派手に苦しみながらバッタバッタと倒れていった。
あまり、長く「オーバー・ヒート」を使うのはまずい。
しばらくしてから私は「オーバー・ヒート」を解除して、シャムシールの「100」ポイントだけで、敵を相手する。
そして乱戦は続く。こちらの方が不利ではあるが、私の活躍により、私たちが総崩れを起こす事は無く、どうにか持ちこたえる。
しかし、第一部隊から第三部隊のほとんどがやられてしまった。もちろん、敵の死体も甲板の上に累々と横たわっている。
まさに光景は地獄絵図だ。
仕方なく私は第四部隊にも斬り合いに参加するように言う。
そして向こうの船からも、また敵が乗り込んで来た。しかし、向こうから乗り込んで来た者達も最初に乗り込んで来た者達と比べると剣が得意そうでは無い。
お互いに非戦闘員レベルまで駆り出しての総力戦となってしまったようだ。
しかし、こちらの第四部隊は敵と剣を交えると魔法にでもかかったかのようにバタバタと倒れる。
アッサリとやられ過ぎだ。馬鹿者。
私がまた、周りをキョロキョロと見回すと……
深刻な顔をして、新人オーディが剣を片手に近づいてくる。
何か独り言を言っているようだ。
「どうしました?オーディ君」
私は味方の思わぬ劣勢に慌てている風な声で聞いた。
「俺も戦いに参加します」
「君が?」
「はい!俺も一緒に戦わせて下さい」
普通に考えれば、こんな若者が増えたとして、とてもこの劣勢を覆せるとは思えないが……
「分かりました。お願いします」
私はオーディにニッコリ微笑んでそう言う。
オーディは嬉しそうに頷くと剣を構えて、私の横に立った……
私は小さく呟く。
「……ラム酒を一杯発動」
そして続けて言う。
「……海賊の目発動」
虎の子である虎眼石の指輪を使う為の掛け声だ。
すると……
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【ステータス】《オーディ・ゴッド》
Lv : 16
HP :71
STR :71
VIT :71
INT :71
AGI :71
LUK :71
PIR :26
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やはりオーディはプレイヤーか……