エッダリ算
新しい仲間を加えて、私たちはアーガルの港を出発した。
新しく増えた仲間は七人である。
中でもトゥルルは素晴らしかった。おそらく仲間の中で最も強いだろう。それも飛び抜けてである。
トゥルルの素晴らしいのは剣の腕だけでは無い。操船やその他の事もそれなりにこなすのだ。
まるで海賊になる為に生まれてきたような若者だった。エッダリ300人分の価値があるだろう。
音楽家ヴェトラも良い。船の上での生活に楽しみが増えた。
獲物を探して長く航海をしていると、皆それなりにストレスが溜まる。そうなれば、いらぬ争い事も生まれようというものだが、しかしそこに音楽があれば、皆のストレスも軽減される。
ヴェトラは完全な非戦闘員なので、戦力にはならないが、戦闘に入る前に気持ちが高揚する音楽でも吹いて貰えば士気も高まるだろう。
しかし、次の海賊行為に今回の新人を参加させるつもりは無い。
私は新人の七人を集めて言う。
「まずは見ていて下さい。今の私たちは元から私と行動を共にしていた者と、元パウルの部下で後から私の仲間になってくれた者がいます」
「……」
「まずは、私たち自身が連携をとって海賊行為が出来る事を確認します」
新人たちは真剣に私の話を聞いている。戦闘時の人員では無いヴェトラもちゃんと話を聞いていてくれた。
「あなた方の出番はその後です」
剣の腕に自信のあるトゥルルと、「海に出る者で壊血病を知らない者はいない!」と言ったオーディは少し不満そうな顔をする。
この二人はかなりの航海経験者のようだ。仲良くやれれば、すぐにでも落ちこぼれのおっさんたちより貴重な戦力になるだろう。
共同購入した栄光を掴む船に乗って、初めて航海に出た時は本当に大変だった。
仲間は皆、何も知らないのだ。全てを私がやった。しかし、今は逆に何もやる事が無い。
パウルの子分達は素晴らしい者ばかりだ。皆、操船技術に長けている。そしてそれなりに戦闘力があるのだ。
一人当たり、エッダリに換算して、3~4人分ぐらいだろう。
そしてパウルの子分で抜群に良いのが、ラグナだ。彼はパウルの船で航海長だったと言う。
航海術、操船技術、子分に対する操船の指示、全てが完璧に近い。
この人は、エッダリ算で100人分ぐらいだ。
ちなみにエッダリ算とは私が考えた計算方法である。
人材の能力や価値を点数法では無く、エッダリ何人分の価値があるかで計算する方法だ。
獲物を探して、丸一日が経つ。
……航海中は何もする事が無く暇である。こんなしょーもない事を思いついても仕方がないだろう。私が悪いのでは無い。
話は戻るが、パウルの子分達の凄いところは、皆がそこそこ戦闘力がある事だ。
私はその中から、特に三人の強者を選び抜いた。
今度も私は仲間を第一部隊から第五部隊までに分けたが、その三人はどこにも属さない、私の直属部隊とした。
名前は「お助け隊」だ……
……これも仕方が無い。暇な時間がそうさせるのだ。なんとか三人衆などのそれらしい名前も考えたがしっくりくるものが無い。
それなら「お助け隊」で良いだろうと決めたのだ。
パウルの子分達は全体的に皆強いが、この三人は頭一つ分は飛び抜けて強い。
私の「オーバー・ヒート」も無敵では無い。「海賊力」が切れてはただの人だ。
何かの時の為に、戦闘でも頼りになる人材を確保しておいた方が良いと思ったのだ。
「ふう」
私はため息をつく。
それにしてもなかなか獲物となる船が見つからない……
あまり、今のメンバーで長い航海はしたく無い。
料理人エールがいないからだ。最初は気付かなかったが、船の上ではコックというものが重要な役割を占めるようだ。
航海の最中の一番の楽しみは、やはり食事だろう。今はヴェトラの音楽もあるが、音楽は聞かなくても死なない。しかし食事は取らないと死んでしまう。生命の源である。
その楽しい食事が今はあまり美味しく無いのだ。
いや、今が普通なのだろう。たまたまエールの調理の腕が良かったのだ。
航海中の食事といえば、堅パンと干し肉が多い。保存がきくからだ。しかしエールは、それを極少量のチーズやバターで味付けをしたりしていたのだ。
それに航海のはじめの方では、食材も豊富なはず、最初は普通の食事が出てもおかしく無いと思う。
しかし、今のメンバーでは、食事ははじめから堅パンと干し肉のみだ。
エールが入れば最初の数日間は陸の上で、お店が開けるのではないか?と思える程の食事が出たぞ!
今はなぜ、最初から味気ない堅パンと干し肉だけなのだ。
私は新しい航海長のラグナに聞いてみた。
すると、パウルの子分のコックは私たちとの戦闘で死んだと言う。
70人も生き残ったのだぞ!なぜ、コックが死ぬ!?前に出すぎだ!馬鹿者!!非戦闘員として後ろに隠れていろ!!
そういう理由で我が船にコックはいない。物資管理係の甲板長もいない。これも私達との戦闘で死んだようだ……
だから、前に出るな……
そういう理由で今回の航海には不安がある。積んでいる食料があてにならない。
恐い……
本などを読むと、海賊の船上での食事の悲惨さがよく書いてある。
彼らは食料が無くなり、餓えるとネズミや虫、最後には靴など、食べ物では無い物まで食べて空腹に耐えたらしい……
この【海賊GAME】はリアルを追求する事に命を賭けている節がある。そのうち、私もそういう物を食べさせられるかもしれない……それが恐い。
後、前の航海長スノラもいないと困る事がある。
それは釣りだ。彼がいないと魚をガンガン釣る者がいない。
最初に大きなウミガメを釣った時には驚かされたが、彼はあの後もいろいろな魚を釣った。
それをエールが調理する。毎日、美味い食事が食えた。
またスノラは、航海長としてはイマイチの部分もあったが、性格が良かった。
気のいいおっちゃんという感じである。船の上ではストレスの溜まった者同士、よく争いが起きたが、スノラが仲裁に入るとだいたいが収まった。
まあ、まあ、まあ。どうしなすった?お二人さん……と話に入っていって、スノラが聞いているうちに争いが収まるのだ。
これは助かる。彼の人徳だろう。
今の、ラグナは航海長としてあらゆる面で優れてはいるが、少し口うるさいところがあった。本人が優れているがゆえの事だろうが、ラグナに指示を受けると子分も少しピリピリしているように見受けられる。
別にそれをいけないとは言わないが、自由を愛する海賊像に少し合わないような気がする。
「カナエー、ご飯だぞー」
エッダリが呼ぶ。
やれやれ、また堅パンと干し肉だ。
私がそう思っていると見張りが叫ぶ!!
「左舷15度の方向に船を発見!!」
私は言う。
「よし、獲物だ。ラグナさん、頼みます」