達人同士
その若者は静かに私達を見る。
すごいな。えらく自然体だ。
「……」
「……」
私は試しに若者が話し出すのを待ってみた。
「……」
「……」
「……えっ、なんで無言?」
無言の空気に耐えられなくなったのか、エッダリが声をあげる。
「……えっと、おめぇ、名前は?」
そして勝手に若者に質問を開始する。まあ、私だけが仲間になりたい者に質問をしなければいけない理由もない。
「……トゥルルです」
「おめぇ、地球は丸いか?」
「……それは何か海賊になるのと関係がありますか?」
エッダリはトゥルルに逆に質問をされてしまう。
「えっ?」
エッダリは困った顔をして私を見た。
それぐらいで動揺するな、馬鹿者。
「海賊行為とは関係はありません。海賊行為と関係無いことは質問してはいけませんか?」
私は笑顔でトゥルルに聞いた。
「……」
トゥルルは私を眠たそうな目で見てくる。
「あなたは何が得意ですか?」
私は内容を変えて彼に質問をする。
「……だいたいのことは出来ます」
これはまた大きく出たな。年齢は二十代後半ぐらいだろうか?私のゲーム内の設定年齢である二十九歳より少し若いぐらいである。
「あなたは剣もお得意ですか?」
トゥルルは少し考えた。
「……ええ、私より強い人はそういないと思います」
なんと!?そこまで言い切るか?この若者は。
私は今、「虎眼石の指輪」を一つ持っている。パウルを倒した時に手に入れたのだ。これはキャラクターのパラメーターを確認出来るらしい。
ぜひ、この若者に使ってみたいが、このアイテムは一回こっきりのようだ。使うと消えるらしい。
あまり軽はずみには使えないだろう。
「エッダリさん、相手をしてあげて下さい」
「えっ、俺っ!?」
エッダリはびっくりして大声をあげた!
これぐらいの冗談で狼狽えるな。馬鹿者。
「よし、私が相手をしましょう」
私はそう言って、横に置いてあったシャムシールを掴み、席を立つ。
「……」
トゥルルは眠たそうな目をこちらに向けて、自分も手に剣を持った。
私達は宿屋を出て、近くの広場に向かう。
宿屋の外で待機していた仲間たちがゾロゾロと後をついてきた。
皆、私の「オーバー・ヒート」使用時の強さを知っている。これは見ものと思ったのだろう。
私としては、ある理由から新しい仲間の剣の腕を見たく無いと思っていたのだが、流れ的にそうなってしまったのだ。仕方が無い。
「さあ、始めましょうか?」
広場に着き、剣を抜いた私はトゥルルの方を向いて言った。
「……」
トゥルルは静かに鞘から剣を抜いてそれに応える。
彼の持つ剣はサーベルだ。
サーベルとは斬ることに特化して作られた少し曲線を描いた剣だ。持ち手の部分にガードが付いているのが特徴的である。
トゥルルのイメージには少し合わないように思える。
まあ、無骨なカトラスを握るよりかは、いくらか似合っているが……
私は例の合言葉を唱えて「オーバー・ヒート」を発動させる。すると私の体内に力が漲ってくる。
まずは、トゥルルの出方を待つか……
ヒョンッ!!
トゥルルが、信じられないスピードの突きを放って来た!!
ギンッ!!
私はかろうじて彼の剣を弾く!!
キュイッーン!!ギンッ!!
トゥルルは連続で攻撃をしてくる。突きも振り下ろしも、横への薙ぎ払いも、全ての攻撃が速い!!
「くっ!」
凄い。まさかこんな人材が仲間になりたいと志願してくるとは?
ゲームの王道を無視してはいないか?こんな適当な仲間集めで、やってくるのは普通ザコキャラだろう?
そして有能なキャラや、レアなキャラは難しいイベントをクリアした時にでも得たいものだ。
ギンッ!!キュイッーン!!
私はトゥルルの攻撃を力強く弾いた後に、反撃する!!
ギンッ!!キュイッーン!!
うむっ。スピードとパワーのバランスが良い。
キンッ!!
うぉっ!!
攻撃はどれもすばらしいが、特に突きが速い!!
どうやって相手をしようか?
……うーむ。
剣道などやったことは無いが、何せシャムシールのポイントが「100」なのだ。出来なくは無いだろう。
突きは攻撃の起こりから、相手の身体まで、最も最短距離を通る攻撃だ。
なので、攻撃の起こりに対して最も注意しなければいけない……
私は心を落ち着けてトゥルルの攻撃を待つ。
「……」
「……」
私の待ちの構えに何かを感じ取ったのか……トゥルルも自分の一番得意な姿勢で構えて、私の様子を伺っている。
「……」
「……」
周りのギャラリーも固唾を飲んで見守りはじめた。
「……」
「……」
……
……
空気が張り詰める。
……
……
……ピクッ
来たっっ!!
ヒョッンッッ!!
トゥルルの渾身の突きだ!!
トゥルルから放たれたサーベルを私は上から自身の剣で払う!!
力などいらない。
上から触る程度に抑えただけだ。その時に少し角度をつける。
トゥルルの突きはその軌道を、私の首から、脇腹に変えた!!
私は少し身を捻り、そして前に踏み込む!!
トゥルルのサーベルは私の脇腹をかすめるが、服を切り裂いたのみで、皮膚に傷はつかない。
そして、シャムシールで峰打ちという手もあったが、しっかりと前に踏み込んだ私と、素晴らしい踏み込みで前に出てきたトゥルルとでは、両者の身体の位置が近かった。
私は片手をシャムシールから離し、手刀を作って、軽くトゥルルの頭に面を放った。
トンッ!
勝負ありだ。
「……」
「……」
広場は静まり返る。
「……」
「……」
そして……
「……す、すっ!!凄いぞ!カナエ!!」
「おおぉっー!!」
「うぉぉー!!カナエッ!!」
「カナエッ!!凄い!!」
「カナエッ!!」
広場に歓声が巻き起こる!!
よほど剣の腕に自信があったのだろう、私に手刀で面を打たれたトゥルルは放心状態だった。
「素晴らしい剣の腕です。あなたにもぜひ仲間になって頂きます」
私はトゥルルの肩を叩き、にっこり微笑んだ。