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海賊GAME  作者: niyuta
先行者優位
50/73

たかがゲームだ

……久々だな。知り合いとお酒を飲みに来るなんて。


「がははっ、楽しいなっ、カナエ」


くそ、隣でエッダリが鬱陶しい……


私は今、アーガルという港にいる。そして酒場で酒を飲んでいるのだ。


あのパウル・ハウゼンを倒した後に、この港までやって来たのである。


パウルを倒して得た戦利品は山ほどあって、一人一人の分け前も相当なものであった。


私たちを栄光へ導くという船を一緒に購入した、おっさん達の大半は、その金を持って元の生活へと戻って行ってしまった。


結局、私がパウルを倒した時に、生き残っていたおっさんは40人程だった。その生き残りの中にはエッダリとスノラとエールもいた。


その40人の内、20人ぐらいが元の暮らしへと返っていったのだ。


私としては嬉しいことに、スノラとエールは残ってくれた。彼らは我が船の要なので居なくなると操船や食事に不安が出てしまう。


「カナエ、大丈夫か?酒が冷めるぞ」


エッダリも残ったが、それはどうでも良い。それに酒は冷めない。最初から冷たい酒を飲んでいるのだ。


そして嬉しいことに生き残ったパウルの子分70人は、そのまま私の仲間になることを承諾してくれた。


なので、50人程の落ちこぼれのおっさんばかりで始まった海賊稼業は、一気に百人程の大所帯に膨れ上がった。


そして、中身も大きく変わった。航海未経験の落ちこぼれのおっさんばかりだった私たちに、いきなり海千山千のパウルの子分達が加わったのだ。


しかし、この酒場にスノラとエール、それと半数ほどの仲間の姿はない。彼らには秘密の任務を与えたからだ。


私が、スノラとエールにその秘密の任務を伝えると彼らはびっくりした顔で私に言った。


「カナエ、なぜ、そのようなことをしないといけないんだ?」


彼らにはうまく説明が出来ない。だから私はこう言った。


「先行者優位の結果、今後、私の元には続々と人が集まって来ることが予想されます」


私がこう言っても、スノラとエールには何のことだかさっぱり分からない。


「だから、その予防の為に、あなた達には先程言った事をして欲しいのです」


思うことは……彼らが新しく仲間になったパウルの子分達と、うまくやってくれていれば良いのだが……


私が心配していると……


「ここ、いいですか?」


真後ろで若い女性の声が聞こえる。


うんっ?


酒場のお姉さんか?


「ええ、いいですよ」


私はそう言って後ろを振り向いた。


な、何ぃっ!?


……若いっ!!


いくら何でも若すぎないか?まだ、未成年だ。十七、八歳くらいだろうか。


何度もひつこいようだが、私は子供が出来るのが遅かったが……


「失礼します」


声を掛けてきたお嬢さんは私の隣に座る。


……もし、二十歳ぐらいで子供が出来ていれば、これぐらいの娘がいてもおかしくないのだぞ。


「どうぞ」


お嬢さんは、私のコップにラムを注いでくれる。


「あっ、どうも」


私は右手に持ったコップをお嬢さんに差し出して、ラムを注いでもらう。この時なぜか左手は自分の後頭部をポリポリと掻くような仕草をする。理由は分からないが癖みたいなものだ。


そしてペコペコと頭を少し下げる。こちらはお金を払っているのだから、ここまで恐縮する事は無いのだろうが、なかなか可愛いお嬢さんである。


こんな可愛い女の子が、お金の為とはいえ、私みたいな者に媚びヘツラって、お酒を注ぐのには辛いものがあるだろう。だからついつい申し訳無いと思い、頭を下げてしまうのだ。ゲーム開始時に自分の外見はイケメンに設定しておいたが、中身は私だ。何も変わらない。


私もこのお嬢さんが、アッパラパーな感じの女の子であれば、こうまで恐縮はしない。


しかし「君はこんな水商売みたいなことをしなくても、他にいくらでも出来ることがあるよ」と言いたくなる様な、理知的な雰囲気の女の子だ。


この子がこんな商売をしている事を、親御さんは知っているのか?


いやいや、違う違う。これはゲームだ。この子はゲームのキャラクターなのだ。


あまりにこのゲームがリアル過ぎて、気持ちが入り込んでしまう。


お嬢さんは、私の隣に座っているのだが、私にピッタリと身を寄せて来る。


甘い、いい香りがする。お嬢さんと密着した肌が暖かくて気持ちいい。


湊を抱っこしている時とまた違う感触だ。当たり前だが。


なんで、こんな若い子なんだ?私も社会人だ。会社内で今のような境遇になるまでは、お客の接待などでキャバクラに行った事もある。


その時は、こんなにキャバ嬢とは歳が離れていなかったぞ。


……だからと言って、私と同年代の四十歳前のおばさんに出てこられても困るが……


しかし、こんな自分の娘ぐらいの子供にこられても……


私がいろいろと考えていると……


お嬢さんが少し恥ずかしそうにこちらを見る。


顔が真っ赤である。そのクリクリとした大きい目を潤ませて私を見ている。


なんだ?


「あの……」


お嬢さんは恥ずかしそうだ。


「……その」


なんだ?何を恥ずかしがっているのだ?私が、あまりにびっくりしすぎて、この子をジロジロ見過ぎたか?


「……今晩のお相手は決まりましたか?」


なっ、なっ!なっ!!


なんだとっっ!!


なんだ!その今晩のお相手とはっ!!


いやいや、私ももう、いい大人だ!カマトトぶるつもりは無い!!


今晩のお相手とはっ!!もちろん、今晩のお相手だろうっ!?


何を言っとるんだ!私。一度落ち着けっ!!俺!!いやいや、私!!


「もし……その……あれだったら、私と3ピース・オブ・エイトでどうですか?」


何?そんなに安いのか?いや、違う、違う。


私には「お嬢さん、自分をもっと大事にしなければ駄目だよ」との言葉が浮かぶ。


しかし、これはゲームだ。このシチュエーションも、ゲーム会社がプレイヤーを囲い込む為に作ったシチュエーションなのだ!


こんな所で道徳心を出してどうなる?ここでいい子ぶってヤらなくても、ゲームと割り切ってヤっても何も変わらないのでは無いか?


そもそも、こんな事を考えること自体がバカバカしい。


……これはゲームなのだ。


私はお嬢さんの方を見る。私が見るとお嬢さんは恥ずかしそうにそっと下を向いた。


ゾクゾク……


背筋がゾクゾクとする。理知的なお嬢さんの恥じらいの表情が男心をくすぐる。


「……どうですか?」


もう一度お嬢さんは聞いてくる。声は消え入りそうだ。


私は意を決してお嬢さんに言う。


「……お嬢さん、私は女性を金では買いません。しかし、ケチの為だと思われても男がすたる……」


「……」


「……貴女にここに座って頂いたのも何かの縁だ。3ピース・オブ・エイトは貴女に差し上げます」


良かれと思って言った私だが、お嬢さんの顔がさっと青ざめる。


「お嬢さん、これは恵むのではありません。それに貴女が嫌だからの断り文句でもありません」


少しだけ、お嬢さんの表情が和らいだ。


「貴女に隣に座って頂いた事により私は、お酒を美味しく飲めました。だから3ピース・オブ・エイトを差し上げるのです……」


「……あ、はい」


私はお嬢さんの目を見て、笑いながら言う。


「……私に美味しいお酒を注いでくれてありがとう。可愛いお嬢さん」


たかがゲームだ。私の行為は馬鹿馬鹿しい。何を本気にしているのだ!と言いたい。


しかし、ここで意に反する事は出来ないだろう。


もし、たかがゲームごときに負けて、後ろめたい事をしてしまっては……


……私はもうまっすぐ湊の眼差しを受け止める事が出来なくなってしまう。


私は会社では窓際以下で、家では妻に馬鹿にされている。しかし、湊だけは私を凄い人間だと見つめてくれる。


私は立派なビジネスマンでも、素晴らしい夫でも無いが……良いお父さんになる。湊が生まれた時にそう決めたのだから……

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