パフォーマー
しまった!少年に気をとられ過ぎたか?
私も少年のような華麗なバック・ステップで、仲間の元に戻りたいが「オーバー・ヒート」が切れて身体が重い。
これはかなり「体力(HP)」が減っているんじゃないのか?
まずいぞ、後ろには回り込まれていないが、前面を敵海賊達に包囲されている。前と左右で三人だ。
ギンッッ!!キンッ!!
その三人の海賊が連続で攻撃を仕掛けてくる。たまったものでは無い。
仲間のおっさん達には三人チームで敵一人を襲えと指示を出したが、三対一とはこんな状況か?
おっさん達にやられた敵海賊は非情に無念な思いで死んでいった事だろう。
キッンッ!!ギンッッ!!キッンッ!!
まずい……
オーバー・ヒートが切れた今、「シャムシール」の「100」ポイントだけでは三人の海賊に対抗出来そうにない!!
私は必死に敵の攻撃を防ぐ。
キンッ!!キュイッーン!!
くっ!今、目の前にいる三人は一人一人が相当な手練れのようである!!
ギンッッ!!
しまった!!右側の敵に、防御した剣を弾かれた!
そして左に立つ敵の凶刃が私を襲う!
駄目だ、かわせない……
ズダーンッ!!
今にも私に剣を振り下ろそうとした左の海賊が吹っ飛ぶっ!!
どうやら、おっさん達の誰かが銃を撃ったようだ。
……弾が残っているなら、とっとと撃って欲しかった。
私の前方と右側の海賊は一瞬硬直する。
私はその隙に華麗では無いステップで、ドタドタとおっさん達の所に逃げ帰った。
私は慌ててスマホを操作しながら言う。
「な、なんで、もっと早く撃ってくれなかったんですか?」
「いや、カナエなら大丈夫かな?と思って……」
期待し過ぎだ、馬鹿者。死ぬところだったわ!
とりあえず、「ピース・オブ・エイト」を全て交換して、私は「海賊力」を「9」増やした。
そして、また、おっさん達の前に出る。
念の為にまだ「オーバー・ヒート」は発動していない。
見ると、あの可愛い少年は右腕から血をダラダラと流しながらこちらを睨みつけている。
もう、剣は握れないようだ。
それは助かった。もうこれ以上は「海賊力」を無駄に出来ない。少年が戦闘不能になったのは幸運だった。
「どうしたっ!?ベルン!!掛かって行かねえか!!」
大丈夫か?あの親父は?何を無理言っとるんだ?
悪いのは人相だけで無く、頭も悪いようだな。
少年は私を睨みつけたまま、動こうとはしない。それはそうだろう、剣が握れないのだ。素手で剣に掛かって行く人間はいな……
ドンッ!!
なにっ!?
「うぅっ!!」
あの親父、少年を撃ちやがった!?
「うっぁぁぁ……」
少年は甲板に倒れてゴロゴロと転がりながら、もがき苦しむ!!
駄目だ!これは致命傷だ!!しばらく甲板の上を転げ回った少年は痙攣を起こす。
……そして少年は動かなくなった。
くそっ!!なんてことだ!?
「ベルンさん!?」
「ベルンさん」
まわりの子分達もこれには慌てているようだ。
「使えねぇ奴は死ね」
親父は言う。
……無茶苦茶な親父だ。
「おら!お前たち!死にたくなければ、あいつを倒せ!」
パウルはそう言うと、私に銃を向ける。
まだ距離が遠いからか、直接撃ってきそうな雰囲気は無い。
まずいな。まだ周りには70人程の敵海賊がいる。
こいつらに死に物狂いで掛かってこられては、手の打ちようが無い。
今までは、いい勝負が出来たかもしれないが、おっさん達は……思った通りスタミナが無いようだ。
皆ヘトヘトである。
おっさん達は今まで、こんな殺すか殺されるかのような場面に出くわす事も無かっただろう。敵と比べると断然こちらの方が疲労が激しい。
ドゥッン!!
ドッンッ!!
「がぁぁぁーっ!!」
「うぁー!!」
なんとっ!!あの親父、また仲間を撃ちやがった!!
「おらっ!!お前たち!早くやらねえか?」
恐怖支配だ。死ぬのが嫌なら敵を倒せという訳か。
まずいな。周りの海賊共がジリジリと近寄ってきた。
おっさん達は疲れきっている。そして私はかなり体力を失っている。
とても、こんな大量の海賊を相手出来無い……
もう、あれしか無いな。
……パフォーマンスだ!
私はあまり好きでは無いが、私の会社の連中がよくやっている。
私は忙しいですよ~
私は会社の利益にかなり貢献していますよ~
私はキャプテンシー溢れてますよ~
という、ポーズ!アピール!パフォーマンスだ!!
そういうアピールが悪いとは言わない。ただ私が苦手というだけだ。
しかし、ここを乗り切る為には苦手な事にも挑戦せねばなるまい。
私は息を大きく吸い込む!!
「おのれっ!!許せん!!」
私の怒声に、敵の海賊よりも味方のおっさん達の方がびっくりする。
日頃、私が怒った所など見た事が無いからだろう。
「一対一で正々堂々と戦った、あの勇敢な少年を銃で撃つとはっ!?」
私は怒りの形相で悪人顔の親父に剣を向ける。
「パウルッッ!!私はお前を許さんぞっっー!!」
周りはシーンとなっている。海賊とは言え、あんな少年を撃つのはおかしい。敵の海賊もそう思っているのだろう。
そして、私の怒りの形相に恐れをなしている。「オーバー・ヒート」発動時の私の鬼のような強さが印象に残っているのだろう。
次が大事だ!!私は一度やってみたかったことがある。
小説などを読んで少し憧れていたシーンがあるのだ。
主人公の一声で人の波が、モーゼの十戒のように割れるシーン。
私はあれをやってみたかったのだ。
現実世界では、そんなシチュエーションに出くわす事はないだろうし、そんなシチュエーションに出くわすような波瀾万丈な人生も嫌だ。
やるなら今しか無い!
私は大きく息を吸い込む!!
いくぞ!!
私は周りを囲む敵海賊に怒鳴る!!
「お前らっ!!そこをどけぇっ!!ーぇ~」
しまった!!声が裏返った!!
「……」
「……」
まずい!!なんだ、この空気は!?皆、どうしていいか分からない表情をしているでは無いか!!
なぜ、こんな大事なシーンで声が裏返る!!
後ろのおっさん連中なんか笑い出してしまいそうだ。
おかしいだろう。
正々堂々と敵と戦った少年が撃たれて殺されたのだぞ。
それを「どけぇ~ぇ~」と声が裏返ったからと言って笑って良いか?
このシリアスな場面が台無しだ。
仕方ない。もう一度!!
「少年よ!!お前の無念は私が晴らしてやる……」
私はそう言ってもう一度剣を構える。
「お前らっー!!そこをどけぇっっー!!!!」
私は「オーバー・ヒート」を発動して、目の前の海賊を薙ぎ倒し、パウルに向かう!!
周りを囲んでいた海賊達は、私の怒りの形相に恐れをなして道を開けた!!
「パウルッ!!お前も男なら!少年と同じように私と一対一で戦えっ!!」
私はパウルの子分が卑怯な手を使わぬように縛りを入れる。こう言えばそうそう手出しはしてこないだろう。
相手は卑怯な海賊だ。こんな縛りがどれ程の役に立つかは分からないが、言わないよりはマシだろう。
私の前を塞ごうとする者はいない!!
私は海の悪魔パウルに向かって一直線に走る!!
いよいよ、敵の親分パウルと一騎打ちだ!!