ありがちな展開
私には少しの間、状況が掴めなかった。
なんだ?あの可愛らしい少年は!?
「ベルンさん、あいつです。あの前にいる奴です」
海賊の一人が私を指差して少年に話しかける。
これは……
素晴らしい!
なんという、ゲーム性の高さ!
殺伐とした殺し合いの中に美少年を取り入れるとは!?
恐るべし!【海賊GAME】である。
ここで可愛い少女のような外見の少年を登場させてくるとは!!
なんたるギャップ!!
このゲームはなかなか良いところを突いてくるな。
……と、言うことは皆が恐れる、海の悪魔パウル・ハウゼンとは……実はあの可愛い少年だったというオチか?
いやいや、さらにさらにだ!
あの少年は、本当は男装の少女であり……
本当は少女海賊だった?
それであれば意表を突いているな。
私が色々と妄想していると……
ズダッーン!!
ダッーン!!
銃声が鳴り響く!!
なんだ?この銃声は、こちらのおっさん達ではない。
私が銃声のした方をみると……
「むむっ!」
凄いぞ!なんていい人相なんだ?
いかにもThe.悪!!という感じの親父が銃を構えて立っている。
たった今、向こうの船から乗り込んで来たようだ。
「お前らー!!もう制圧は終わったんだろうなぁ!?」
人相の悪い親父が言う。
ま、まさか?いかにもだが、この親父が……
「パ、パウルさん!」
「船長!?」
海賊達が口々に叫ぶ。
やはりか!?
私は自身のシャムシールを叩き折りたい気分になった!!
このいかにも海の悪魔パウル・ハウゼンのような親父が……まさしく海の悪魔パウル・ハウゼンだったのだ!?
そのままではないか!!そこには、なんのヒネりも無い!!
あの少年を出したまでは良かった。しかしそれだけだ。
あの少年はおそらく剣の使い手か何かで、あちらの船の用心棒かナンバー2的存在なのだろう?
そんな事、子供でも思い付くわ!!
ガッカリだっ!!
「何をやってる!!早く掛かって行かねえか!ベルン」
パウルが言うと、少年が剣を構える。
うん?他の海賊達が持っている剣と種類が違うようだな。
真っ直ぐな剣で、持ち手の部分に羽ばたいた鳥の模様が飾られている。
一人だけ少しオシャレな服を着ているし、まるで貴族の子供のようだ。
少年は剣を構えて少しずつ私に近づいてくる。
ちょっと待て。私が、こんな子供と戦うのか?
まだ高校生ぐらいだろう?下手をすると中学生だ。
私は子供が出来るのが遅かったので、湊はまだ二歳半だが、もし私に二十代前半で子供が出来ていれば、こんな子供がいてもおかしく無い年齢だ!!
私が余計な事を考えていると……
速い!!
ガッツィーン!!
ベルンという少年が私に鋭い突きを放ってきた!!私はそれをかろうじて弾く!!
信じられない!なんて速さだ!?危なく食らってしまうところだった。
ギンッ!!キュイッーン!!
少年は私に連続で攻撃を仕掛けてくる!!
スピードもさる事ながら、パワーもある!!
ヒョンッ!!
シュッ!!
私は少年のフェイントに引っかかり、左腕にかすり傷を負った!!
くそっ!
このゲームは痛みまで感じるのか?空腹感から痛感まで……そんなに寝ている時の脳に働きかけて大丈夫なんだろうな?
キュイッーン!!
駄目だ!!おそらく速さでは負けている。パワーでは勝っていると思うが、圧倒出来る程では無い!!
私の計算ではあと少しで海賊力が切れる。
私はおっさん達と船の旅をしている間に検証をしていたのだ。
何の検証をしていたのか?
「海賊力」がどれくらいの間隔で「1」減るかを検証したのだ。
それを調べる為に、試しに「オーバー・ヒート」を発動してスマホ画面で自分のステータスを見守っていた。
そして、ある程度「海賊力」が減ったところで、今度は「オーバー・ヒート」を解除して「海賊力」が回復するのを待ってみたりしたのだ。
そして最初にもらった「ピース・オブ・エイト」を「100」だけ「海賊力」に交換もしてみた。
このゲームの要は「海賊力」と言っても過言ではない。「HELP」には、それが「ピース・オブ・エイト」と交換出来ると書いてあったのだ。
しかし初回のプレゼントでもらった「ピース・オブ・エイト」も「海賊力」に交換出来るかどうかが心配であった。
もしかして最初からプレゼントで持っている「ピース・オブ・エイト」は「海賊力」に交換出来ないかもしれないからだ……
しかし、それは問題なく交換出来た。だから私は残りの「ピース・オブ・エイト」の「900」で「海賊力」を「9」増やせる事を知っている。
しかし、その為にはスマホを操作しなくてはいけない。この少年との戦いの最中にそんな余裕があるだろうか?
つまり、この少年との戦闘中に「海賊力」が切れれば、確実にゲーム・オーバーになってしまう。
ギュッイン!!
凄い技術だ。そしてスピード、パワーともに申し分ない。
私は何度目になるか分からないが、少年のフェイントに引っかかり、態勢を崩された!!
くそっ!!
傷を負って体力を削られる訳にはいかない。あまり「体力(HP)」が減ってしまうと、海賊力が無くなると同時にゲーム・オーバーとなる為、私も必死だ!!
らっ!!
無理な態勢から剣を振り上げて、少年を攻撃する!!
ガチンッ!!
キンッ!!
こんなのスマートではな……
んっ?
私の攻撃を受けた後の少年の反撃が遅かったようだが……
私は力任せに剣を振り下ろす!!
らっあ!!
キッ……
ぬぉっ!!
剣の勢いを殺された!!
危なく少年の反撃を食らいそうになるが、私はそれをかろうじて避ける!!
危なかった……
しかし、これは?
らぁっ!!
私は剣を横殴りに振る!!
もうここまでいくと野球のスイングのようである!
ギンッッ!!!!
私のシャムシールと少年の剣が火花を散らす!!
「くっ!?」
少年は上手く私の剣を受けて勢いは殺すが……
微かに態勢が崩れている。これは仕方の無いことだろう。私の力で少年の身体が少し浮き上がっているのだ。
足が地に付いていないのに、態勢が崩れない訳が無い。
これでどうだっ!?
態勢を崩した少年に私は次の攻撃を仕掛ける!!
ギンッッ!!
少年の身体は吹っ飛び、大きくバランスを崩した!!
たまらず少年は大きく後ろに跳び、私と距離を取ろうとする!
させるか!!
私は少年に追いすがった!!
私一人が前に出れば、敵海賊に囲まれ窮地に陥る可能性があるが、機を逸しては何も出来無い。
「おらっー!!」
私は少年に渾身の一撃をお見舞いする!!
私は日頃、あまり大きな声は出さないのだが、さすがに大声が出てしまう。
ズシュッ!!
くそっ、なんて反射神経だ!!バランスを崩して逃げた所を追ったのだ。完全にこちらの有利な態勢での一撃であったのに致命傷は与えられなかった。
しかし、私の剣は少年の右腕を大きく斬り裂いた!
カツーン!
少年は大事な剣を落とす!
トドメ!!
私が剣を振り上げると!!
少年はまたも華麗にバックステップを踏む!なんて運動能力だ。
しかし傷の痛みからか、今までのような速さは無い!
踏み込んで、少年に追撃をしようとした私に……
キッンッ!!
パウルの子分が横から攻撃をしてきた!!
しまった!前に出すぎたかっ!?
背後にはおっさん連中がいるので後ろには回り込まれないが、私は左右から敵の波状攻撃を受ける!!
キンッ!!ギンッッ!!
そして大変な事が起きた!!
身体が……重い!
これは?
「オーバー・ヒート」が停止されたのだ!!つまり「海賊力」が切れた?