ここはどこ?私は海賊?
「今、自分たちがどこにいるかが分からない?」
私はスノラという者に聞く。
この人はあのウミガメを釣り上げたという釣り名人だ。
私が適当に彼を航海長に任命したのだった。すると航海長の彼は私に言ってきたのだ。
ここはどこですか?と。
どういう意味だ?
なぜ、自分の居場所が分からないのだ?
「船倉に海図らしきものがあったでは無いですか?」
私がそう言うとスノラがゴニョゴニョと返事をする。何を言っているのか聞こえない。
「すいません。もう一度言って頂けますか?聞こえませんでした」
「実は……」
スノラは言いにくそうに言う。
聞いてびっくりだ。メンバーの誰も緯度と経度を測定する方法を知らないと言うのだ。
私はかなり前に本で読んだ知識を頼りに聞く。
「クロノメーターや六分儀はあるのですか?」
このゲームはいったい、いつの時代をモチーフにしているのだろう?もうクロノメーターや六分儀という物は発明されているのだろうか?
えーと、それらはいつ頃発明されたと書いてあっただろうか?確か十七世紀頃?
「クロ、クロ……クロ?」
スノラが目を白黒させながら言う。
駄目だ。この人達じゃ話にならない。経度を測定する道具が発明されていない設定なのか?それともこの人達が知らないだけなのか?
うん?そう言えば……
「先ほどメンバーの中に、一人だけ船乗りがいるって言ってたじゃ無いですか?」
「エールの事ですかい?」
そう、確かそんな名前だった。
「その人は?船乗りなら海図の見方や、緯度と経度の測定の仕方を知ってるんじゃ無いですか?」
「……エールは調理人だよ。航海にはよく出ていたようだが、船の上では食事の用意しかしてない言うとった」
「……」
あなた達はどこまで私を苦しめたいのだ?メンバーでただ一人の航海経験者が食事作りしかした事が無いだと?
では、ここにいるメンバーは海賊どころか、船乗りとしてもみんな初心者では無いか?
おかしいだろう?
陸の上でうだつが上がらないからと言って、大海原に出たらどうにかなるとでも思ったか……
とにかくだ。
緯度も経度も分からないとは!闇雲に大海原にやってきて、早くも遭難だ!
「カナエは知らないのか?」
スノラが言う。
「何をですか?」
「その……緯度と経度の測定方法を」
……もちろん、分かる。スキルポイントを「航海術」か「天文学」にでも割り振れば、そんなのは一発だろう。
しかし、それでは何かがおかしい。
何から何まで私一人でやる事になる。そんな海賊聞いた事が無い。
何から何まで全て私がやる。それでは……私生活となんら変わらん。
しかし、スノラは期待に満ちた目で私を見る。
……こんな目で私を見てくるのは、まだ二歳半の湊くらいのものだろう。
「……分かります」
私は仕方なしに言う。そうするとスノラは私を尊敬の眼差しで見る。
「……スノラさん」
私はスノラに言った。
「教えますので、スノラさんも覚えて頂けますか?」
「……」
スノラの顔がパッと明るくなる。
「教えてくれるのか?ありがとう、カナエ。ぜひ覚えるよ」
私は少しびっくりした。スノラは四十歳ほどの男だ。実年齢の私とはそう変わらないのだが、今の私は二十九歳。そんな若造に教えてやると言われて聞くかどうか不安だった。
しかし、スノラは覚えると言う。
私は自分の「航海術」と「天文学」のスキルにポイントを半々に振り分けて、スノラに緯度と経度の測り方を教える事にする。
ポイントを振り分けると、また、私の脳に知識が溢れ出してくる!!このスマホゲームは眠っている間にプレイ出来るというし、スキルポイントを振り分けることにより、この様に脳みそに直接働きかけてくる。
身体や脳に害は無いのだろうか?その辺が心配になってくる。
緯度の測り方は私の想像通りだ。他にも方法はあるが、北極星の角度を測るのが一番正確そうである。
しかし、経度の測り方には驚かされた。
こんな方法しか無いのか?木星の衛星を見て計算から導き出すのだ。
何かの本で、経度を正確に知るのは案外最近まで不可能とされていたとは読んだ事がある。しかし望遠鏡で木星の衛星を見るとは?その方がよほど不可能と思えるが……
私は一生懸命、スノラに緯度、経度の測り方と海図の見方を教えた。
しかし、船の今いる場所が分かっても、それを自由に動かせなければ意味が無い。
私は皆を集めて操船技術を教える。
なぜ、海賊になった私の最初の仕事が、落ちこぼれのおっさん達への操船指導なのか分からないが仕方が無い。
千里の道も一歩からだ。
いったい、このゲーム内では何日が経っただろう?
おそらく一週間は経つと言うのに、私達は一度も海賊行為を行ってはいない。
遠く、獲物となる船を発見することはあるが、まだそちらに船を寄せる事が出来ないのだ。
遠くに行く船を、ただ指をくわえて見送るだけである。
しかし、彼らの操船は徐々にうまくなっている。ある時などはのんびりと航行している船と並走をして、あわや乗り込めるかというところまでいった!!
あとちょっとだ!!
……しかし、その時に驚くべき事があった!!
船を並走させて、あわや乗り込むか!!という時に彼らは武器を持っていなかったのだ……
そこまでいくと、もはや何がしたいのか分からない。
船から船に乗り移るだけであれば、ただのアクション・スターの所業と変わらないではないか。彼らはアクション・スターにでもなりたいのか?
「皆さん。集まって下さい」
私はパン、パンと手を叩き、皆を集めた。
「さあ、皆さん。武器はどうしましたか?」
「ああっ!!」
ああっ!!じゃない!皆、船の操縦に必死になり過ぎて、その後の攻撃を忘れている。
うん?
ま、まさか!この船には手投げ弾以外の武器を積んでいないのではあるまいな!!
剣の類の武器も無しに、私達は一週間も海の上をあっちに行ったり、こっちに行ったりしてたのか?
そんなの!ただのクルージングだ!!
落ちこぼれのおっさん連中が集まって、一週間の船の旅をしていただけに過ぎない。
「……武器は?」
私はもう一度聞く。
皆は顔を見合わせている。
「俺は荷物と一緒に……」
「俺は武器庫に……」
なぜ、みんな手元に準備をしない?
「ここに、集めて下さい。下に置いてある手投げ弾以外の武器を皆ここに出して下さい」
私は言う。