私に構わないでくれ
うん!?ここはどこだ?
暗いぞ!?今は夜か?波の音が聞こえる……
周りにはたくさんの人がいる気配がする。自分達はどこかに向かって歩いているようだ。
いったい、どこに行くというのだ?この集団は?
波の音は聞こえ、潮の香りはするが、とにかくここは陸の上である。
私は海賊ではないのか?いったい今はどういう状況なのだ?
「何です?私って海賊じゃないのですか?」
私が呟くと……
「馬鹿か?てめぇ!これから海賊に精を出すんだろうがっ!?」
私の横を歩くガラの悪そうな男が言う。
私は、こういう粗暴で人の気持ちを考えずに発言をするタイプが苦手である。
「どこに向かっているのです?」
会話はしたく無いのだが、それでは何も分からない。私は仕方なくその乱暴な男に聞く。
「へっ?お前、今まで何を聞いてたんだ?俺たちの船だよ」
「俺達の船?」
「そう、俺達が金を出し合って買った……俺たちを栄光へと導く船に今から行くんだろ!」
私の横を歩くガサツそうな男はさも嬉しそうに言う。
「ふーむ」
意外にまどろっこしいのだな。いきなり海賊かと思えばそうでは無いらしい。
私は仕方なく、横を歩く現実世界ではこれっぽっちも関わり合いになりたく無いような輩相手に情報収集をする。
すると、どうもここにいる連中は海賊になる為に船を共同購入したようである。
ここにいる連中は、どうもこの世界でうだつの上がらない奴の集まりだった。
ふっ。
何をやってもうだつが上がらないから、なけなしの金を出し合って、みんなで海賊をやろうという話になったらしい。
まあいい、どんなゲームでも最初はレベル1からだ。
このゲームだけが、はじめから海賊の船長ではおかしいだろう。
さあ、その私たちを栄光へ誘うという海賊船で航海をはじめようじゃないか?
「……」
港に着いた私は絶句する。
なんだ?このボロ船は?カチカチ山の狸でも捕まえて、乗せようと言うのだろうか?
この船は……どう考えても栄光には向かって行かないだろう……
私の表情から、内心を読み取ったらしい……ガサツな男は私に言う。
「しょうがねえんだよ!!金がねえんだから!!最初はこれで小さな船を狙うんだよ!!」
「はぁ……」
私はガサツ男に曖昧に返事をする。
「そしてまずはその小さい船を奪い取っちまう。うへへっ!」
ガサツ男は自分が上等な船を奪い取った所でも想像したのだろう。楽しそうに笑った。
能天気な……
「あの……そんなに簡単に奪い取れるものですか?他人の船が?」
私は心配になり、ついつい聞いてしまう。
「うへへ」
ガサツ男は私を見てニンマリと笑った。
今なぜ、笑った?理解不能だ。
ガサツ男は懐をポンポンと叩きながら言う。
「これこれ」
なんだ?
なんとガサツ男は懐から銃を出した。
「これを一発撃てば相手は震え上がっちまう。そうしたらこちらの思う壺さ」
「……」
うーむ、それは確かに一理あるが、もし相手も銃を持っていたら?
「どうした?不安なんか?」
私の内心をどう読み取ったのか、ガサツ男は心配そうに言う。
「よし、お前に一挺やるよ」
そう言うとガサツ男が懐からもう一挺銃を出した。
この時代、貴重だろうにいったいいくつ持っているのだ?
「……高いんじゃ無いんですか?」
私はいちよ、遠慮してみる。こんな輩にこんな物を貰っては恩に着せられて、後から何を言われるか分からないと思ったからだ。
「値段なんか、気にするな。これから一緒に栄光を掴む……仲間じゃねえか……」
ガサツ男は照れ臭そうに言う。
「……」
……現実世界では全く仲間になんぞなりたくない人種ではあるが……
「貴方、名前はなんと言うのですか?」
「俺か?俺はエッダリ。お前は?」
「カナエです」
私はエッダリから銃を受け取る。銃は私の想像以上にズッシリと重い。
そして私たちは……私たちに栄光を掴ませてくれるという、残念なボロ船に乗った。
浮いているのが不思議な感じのボロ船は風に吹かれただけでギシギシと音を立てる。
これは帆船だろうに風に吹かれて軋むとは!?帆船の風上にもおけない……
乗ってびっくりだ。ボロ船にはかなりの数の手投げ弾が積んであった。
危なく無いかっ!?
全部、火薬か油なのだろう?
「……」
この船の末路が見える。風に吹かれて沈没か、海上で突然の爆発だ。
「さあ、出航の準備をしようぜ」
集団の中の誰かが言う。どうも誰が船長とも決まってはいないようである。皆でお金を出し合ったからだろう。
聞くと、この中で最もお金を多く出した人物が、最初に奪った船をもらう権利があるらしい。
しかし、その人が船長になると決まっている訳でも無いようだ。
皆が出航の準備を始めるが、その手際の悪さに私は泣きたくなってしまった。
どこに行っても落ちこぼれは落ちこぼれなようで、ここに集まった連中はそういう輩の集まりである。
「私は……ここで降りていいでしょうか?」
心臓が痛い……ような気がする。
「なんだ?怖気付いちまったか?」
また出た。エッダリだ。
どうも私を気にかけてくれているようだが、放っといて欲しい。
兄貴風を吹かしてくるが、先ほど聞いたら、私より年下では無いか。三十一歳なのだ。
私のゲーム内の設定年齢である二十九歳というのを忠実に守って相手をしてくれているようだが、それがまためんどくさい。
私の実年齢より七つも若い青二歳に兄貴風を吹かされてもイラつくだけである。
正直、二十九歳に設定したのは失敗だったか?
「俺らと一緒に栄光を掴むんじゃ無かったんか?」
エッダリが感情を込めた口調で言う。
「はい、分かりました」
「はやっ!!」
茶番劇には付き合ってはいられない。
さっさと出航しよう。
私の海賊生活の始まりである。