表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海賊GAME  作者: niyuta
荒くれ者の集まり
38/73

噂の男

私の勤めている会社は、昼休みに学校のチャイムのような鐘が鳴る。


大学を卒業して十六年ずっとこの会社に勤めている私は、それを不思議な事だと思いは無かった。


しかし、つい最近入って来た派遣の子がビックリしているので聞いてみたのだ。


その子は派遣で幾つかの会社を転々としているらしく、お昼休みにチャイムが鳴る会社は珍しいと言っていた。


しかし私はこの鐘の音が好きである。この昼の一時間が私の一日で、唯一くつろげる時間だからだ。


私は今日も鐘と同時に席を立ち、いつもの喫茶店に向かう。周りには昼休みもズルズルと仕事をする輩は多いが、それはポーズだろう。自分がどれだけ忙しいかを上司にアピールをしたいのだ。


大変ご苦労な事である。


私はそんなアピールなどせず、行きつけの喫茶店に向かう。


いつもの席に座りメニューを頼んだ後は、ゆっくりと新聞を読んで待つだけである。


「……なださんの話聞いた?」


「聞いた。聞いた。また昇格試験落ちたんだってな」


少し離れた席で聞いた事があるような声がする。


今、真田サナダと言ったかな?


「いったい、何回めだよ!!もう勘弁してやれよ」


私の事を言っているのではあるまいな?


「あんなん部長や、課長達が合否を決めるんだから、嫌われ者の真田さんが受かる訳が無いんだよ」


やはり、私の事のようだ……


ここは会社から少し離れた喫茶店ではあるが、たまにこんな事が無い訳でも無い。


これだから新人社員は困る。私が毎日ここでお昼を過ごしているのは社内では有名な話だ。だから新人以外で、ここで私の噂をする者などいないだろう。


「真田さんもつらく無いんかな?上司に嫌われて、同僚から馬鹿にされて、後輩にも追い抜かれて……」


この声は高木君かな?


……つらく無い訳が無いだろう?君に何が分かるというのだ?


「俺だったら、辞めるな。会社を」


簡単に言うな、馬鹿者が。


「だって、つらいもん。一人だろ?あの人、一人で品質管理部やってんだぜ。有りかよ、そんなの」


ふっ……


「一人で部をやってて、それで平社員なんだぜ?イジメだろ?これ」


ふ、ふ、ふ……


私の噂をしていたのは四人ぐらいの若手社員だが、こういうのは困るものだ。


もし、私がここに座っているのがばれたら気まずいでは無いか。


陰口を叩いていたのは向こうであって、やましいのはあちらだ。


しかし、私はなぜか、ここにいることがばれないようにビクビクと喫茶店内で過ごす事になる。


あまり、私は社内で噂になるような存在ではないのだが……いや、そう思っているのは私だけであろうか……たまたま先日、昇格試験を受けてしまった為、こういう時は、どうも社内で噂されているようだ。気を付けねば。


これのせいで私は今日一日嫌な気分のまま過ごし、帰宅をする事となる。


しかし、ここからがまた大変だ。


私には妻と子供がいるのだが、私の分の晩ご飯は用意されていない。当たり前である。何が当たり前かは分からないが……


しかし、大丈夫だ。晩ご飯はしっかりと帰りにコンビニで買ってあるからだ。備えあれば憂いなしというやつである。


私はコンビニ弁当を電子レンジで温めて食べる。食べた後は、自分の食べた弁当箱を洗い、分別して捨てる。


……そして、ついでにシンクに溜まったお皿を洗いはじめる。


これは妻と子供が今日一日食事をした分だ。


私が家族の分の皿も洗うのだが、なかなか量が多い。とても大人一人と二歳半の赤ん坊が食べた分の皿の量とは思えない。


妻は私の留守中に、毎日家でフルコースを食べているのでは無いだろうかと疑う事もしばしばである。


皿を洗った後、今度は洗濯物を干す。これも家族全員分だ。


妻は二歳半の子供の面倒を見るのに手一杯らしく、なかなかそこまでは手が回らないらしい……


食器洗いと洗濯は、たいした作業では無いのだが……一日、仕事をして帰ってきてからやるには、なかなか骨が折れる。


「ふー」


私は洗濯物を干し終わって一度大きく息を吐く。


やっと終わった……


後は風呂に入って寝るだけである。


私は風呂の中で考える。自分は何が楽しくて生きているのだろう?


毎日、毎日同じ事の繰り返しだ。それも毎日苦痛とまでは言わないが、たいして楽しくもない事の連続である。


風呂から上がって布団に入った私は、いつもスマホをいじりながら眠りにつく。


スマホで特に何をする訳でも無い。動画共有サイトで動画を閲覧したり、興味のあるニュースをニュースアプリで読んだりするだけだ。


今の私の楽しみはこれだけである。


子供が小さい事もあるが、趣味に費やす時間は無い為、寝る前にちょこちょこっとスマホをいじるのだけが楽しみなのだ。


「うん?」

________________

【海賊GAME】

「無料(ゲーム内課金有)」

『ゲームバランス最悪!!ただ面白いだけのどうしようもないゲーム!!』

《今ならゲーム内通貨1,000ピース・オブ・エイトをプレゼント》

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

なんだ?


海賊ゲーム?自分が海賊になれるゲームか?なかなかおもしろそうだな……


【海賊GAME】と書かれたその広告は雄々しく立つ海賊と、それに身を寄せる美しい女性のグラフィックが描かれていた。


なかなかかっこいい。


どうやるのだろうか?


以前は好きでよくケータイゲームなどをやっていたが、最近はとんとやらなくなってしまった。


最近のゲームはどんな感じなんだろうか?


海賊という題材が興味をそそる。下手に勇者や冒険者にされるより、自由度が高いような気がする。


それに私は以前から、海賊というものに憧れを持っていた。海賊の生き方に憧れていると言うべきか?ふ、ふ、ふ、どちらでも一緒だ。


一時期は海賊モノの小説を多く読んでいた時もある。


しかし、問題は今の生活でゲームを、やっている時間があるのだろうか?


私が興味深くゲームの説明を読んでいると……


なに?ゲームは寝ているうちにプレイされるだって?


夢の中でゲームをするのか?少し嘘っぽくもあるが……


私はその【海賊GAME】という名のアプリをダウンロードしてみる。


私のスマホの画面に【海賊GAME】のアイコンが表示された。


私はそれをクリックしてみる……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ