ブルグン、慎重になる
我が「ジークと愉快な仲間達」では海賊行為時の女性への暴力や乱暴は固く禁止している。後味が悪いからだ。
最初は船員達から不平不満も出たが、嫌なら出ていけばいい。
このゲームはリアルなので、このゲームを始めたら、それを目当てにゲームをする奴もいるかもしれない。
しかし、俺は相手がゲームのキャラクターとは言え、女性に乱暴を働いたり、仲間がそういう行為をしているのを見るのは嫌だった。だから禁止にした!
しかし、女性の多い船は獲物としてはおいしい。ほとんど抵抗を受けないからである。つまりこちらの損害も少ない。
「よし、アレを狙うぞ!!」
俺は前方を指差して言う。
「……」
俺の横で望遠鏡を覗いていたブルグンは何も返事をしない。
「ブルグン?どうした?準備をしろ。次はあの船を狙うぞ!」
するとブルグンは言う。
「あの船はよしませんか?ジークさん」
「なんでぇ!?」
「怪しく無いですか?」
俺は望遠鏡を覗く。まだまだ距離が遠い為によくは見えないが、甲板の上で女性達が右往左往しているように見える……
確かに怪しいと言えば怪しいと言える。
なぜ、船倉に隠れない?こういう場合、甲板に出てくるのは男どもでは無いのか?
いやいや、まだこちらはジョリー・ロジャーを掲げてはいない。
「まだ、こちらが海賊である事に気付いていないとか?」
「その割にはこちらを発見するなり、進路を少し右に変えました……」
「うーむ」
ブルグンは難しい顔をして海図を見た。
「ジークさん、俺たちゃ陸を右にして進んでいます」
そんな事は言われんでも分かってる。
「そしてこの辺は陸に近づくと、特に浅瀬や岩礁が多い……」
まどろっこしいぞ!ブルグン!!何が言いたい?
「俺たちはやばいかもしれません……」
「なんだとっ?」
この不死身の海賊ジークがやばいだと!?笑わせるな!!
「スピードを上げろ!!」
ブルグンがいきなり叫ぶ!!
「なんだ?どうした?なあの船を狙わないのか?」
俺が慌てて言うがブルグンはこう答える。
「こちらが狙わなくても、向こうからやってきますよ」
そうか!向こうも海賊か!?
「あの位置から、徐々に左に進路を変えてきます」
望遠鏡を覗いたブルグンは独り言のように俺に言う。
何を言っとるんだ、ブルグンは?病気か?
……なんと?
望遠鏡を覗いている俺は驚く!!
ブルグンの言う通り、一度右に梶をきったその船は、はるか遠くで今度は船を左に転進させたのだ!
「あのまま、円を描くようにこちらにやってきて、この船と並走させるつもりです」
ブルグンは言う!!
海の男では無い俺だが、何日かは、この船に乗っている。だから分かる!相当な技術だ!梶をきる者と、帆を操る者の息がしっかり合っていないと出来ない芸当である!!
こちらには「オーバー・ヒート」もあるので負ける事は無いが、このゲームで被害を受ける事は致命傷である。
負傷者への分配がかさむし、港に戻ってから、船の修理代も取られるようだ。
「もっとスピードは上がらねぇのかっ!?」
ブルグンは大声で叫ぶ!!
駄目だ!!スピードを上げてもあの船は巧みな操船技術でこちらの真横に自船を並走させてくるだろう!!
しかし、あの船はスピードがあまり速く無いように感じる!
「ブルグン!スピードを上げる以外に逃げる方法は無いのか?」
右に逃げるとか、左に逃げるとか!
「駄目です。左は、あちらの船に近づくだけですし、陸側は浅瀬や岩礁が多いので、これ以上、右にはいけません」
なんだと!
くそ、被害甚大となっても戦うしか無いようだな!!
望遠鏡を覗いているブルグンが言った!!
「くそ、一体、何人乗ってやがるんだ!?」
俺はまた望遠鏡を覗く。予想通りというか、甲板の上のカラフルな色の衣装はまやかしだった。
甲板の上でゴツい男どもが布切れをヒラヒラとさせているだけだ……
気持ち悪い……
しかし甲板の上には数人の人間しか見当たらない。
「ブルグン?どういう事だ?なぜあっちの船には人が一杯乗っていると分かる?」
また、ブルグンのキョトン顔が出るかと思ったが、そんなことは無く、ブルグンは真剣に答える。
「喫水線です」
「キッスイセン?」
「船には水面より上に出ている部分と、水面下の部分があるでしょ?」
こんな時だと言うのにブルグンは馬鹿丁寧に説明をしてくれる。
「ああ」
「船の水面の高さを喫水線と言います。船がどれだけ水中に沈んでいるかという事です」
「……」
「あの船は沈み過ぎです。相当な数の人を積んでる」
そういう事か。つまり、あちらの船もこちらの船も大きさはそう変わらないが、断然、向こうの方が戦闘員が多く乗っている訳か……
そいつはやばいな。そうで無くてもこちらは、海賊になりたての新人が多い。頼りになるのは、ブルグンとベルンとその子分達だけだ!!
しかし、逃げる事は出来そうにない。たくさんの戦闘員を積んでスピードは遅いが、敵は着実にこちらを目指して距離を詰めて来る。
「迎撃の準備に入れ!!」
頼りは、俺の「オーバー・ヒート」と、天才ベルンと、ブルグンの統率力の高さである。
敵が二倍いようと負ける気はしないが、少しでも被害を小さく抑えなければいけない。
「あの、ジョリー・ロジャーは!?」
ブルグンが言う。敵の船がジョリー・ロジャーを掲げたのだ!!
「なんだ!?有名な奴なのか!?」
ブルグンの驚きように俺はビックリして聞く。
「あれは……イ、インテリ海賊ファントムです!ジークさん……」
えっ?
……インテリ?
なんだ!?その安っちぃ通り名は!!
野蛮な海賊の世界にインテリはおかしいだろ!!
そのインテリ海賊とやらのジョリー・ロジャーは……ドクロが片方だけの眼鏡をかけていた……そしてその眼鏡からクサリらしき物が垂れ下がっている。そして、そのドクロが重なるように二重に描かれているのだ。
出たっ!!また出た!!
この【海賊GAME】の悪い癖が!!
お遊びか?またお遊びが出たのか!?ベルンの時のような!!
博士みたいなのが出てくるのか!?それとも本当にインテリみたいなのが出てくるのか!?
どっちだ!?
こちらは最大船速で突き進むが、インテリ海賊を振り切ることは出来ず、向こうの船はどんどんこちらに近付き、最終的には横を並走するまでになった……
ファントムとやらと戦闘開始である。