いきなりの降伏
なんだっー!!このゲームは!?
名前が【海賊GAME】なんだから、「海賊」の「ゲーム」じゃないのか!?
海賊は海賊行為をするから海賊じゃねえのか!!
いきなり降伏しやがった!!
さきほど狙った船は俺達が近づくと、最初派手に逃げた。
しかし俺達が追いつくといきなり降伏したのだ。
「積み荷をみんなお渡ししますから、命だけは助けて下さい」と言ってきやがった!!
いったい、このゲームは何が楽しいんだ!!
戦闘全く無しだ!!ゲーム性全く無視だ!!
「良かったですね。ジークさん。楽にお宝を頂けて……」
よくねぇ!!
ブルグンはホクホク顔で言うが、お前のホクホク顔なんて見たくねぇ!!
そもそもこいつが悪い!!
船が近づくに連れて仲間に怒号をあげさせたのだ!
ガラの悪い男達の叫び声が響く!!
そして今にも船が接舷しそうになると、今度はベルンを隠れさせた!!
ベルンはこの船で最も強い男だ!!なぜ、隠してしまう?
俺が聞くとベルンでは威嚇にならないと言う。
そして人間か獣か分からないような、ブルグン勢と元パウル勢がいきなり、相手の船に乗り込んで行ったのだ。
遅れてなるものかと、俺もショーテルを持って乗り込んで見ると……
「お前らっー!海の悪魔パウル・ハウゼンを知っているかぁっ!?」
なんだ?なんだ?ブルグンが叫んでいる!!
「この船は、あのパウルを八つ裂きにぶっ殺したジークさんの船だ!!」
「……」
「お前ら、命が惜しければ逆らうんじゃねぇ!!」
これで相手の船は降伏だ……
結局、俺は何もせずだ。
相手の船に乗り込んだ俺はしばし呆然とする……
戦闘は?
戦いは?
いったい、何のゲームなんだよ!!これは!?
俺は何もさせてもらえてないし、我がチームで最も最強キャラのベルンなんて、柱の陰で隠れてただけじゃねえかっ!?
いろいろな意味でおかしいわっ!?
呆然としている俺に近づいてきてブルグンは言う。
「あちゃー、ジークさん。困りますよ。勝手に出てこられちゃ……ジークさんは人相が悪く無いから……脅しが効かんじゃ無いですか……」
「……」
……怒られた。逆に怒られた!俺はこの気持ちのやり場をどこに持っていけばいい!?
とにかく、俺は降伏してきた貿易船のような船の金品だけを奪い、乗組員は全て見逃してやることにした。
なんでもブルグン曰く、「降伏した船は見逃すのが不死身の海賊ジークのやり方」として有名になるのがいいそうだ。
すると、次回から戦闘に自信の無い船は降伏してくれるからという事らしい。
俺としては納得がいかないが、そこで皆殺しにしろ!というのもおかしい。仕方なく命は助けてやることにする。
その船の乗組員は皆喜んでいたが、船長らしき人物だけは青く暗い顔をしていた。
まあ、積み荷を全部取られたのだ。えらい損失だろう。しかし、命が助かっただけでも儲けもんと思って貰うしかない。
「しかし、さっき襲った船の船長も気の毒な事ですね」
次の獲物を探して船を走らせている俺の横に立つブルグンがボソリと言う。
しかし悪びれた様子は無い。
「金はまた稼げばいい。命があっただけ良かったと思ってもらうしかないな」
俺は甲板の上で風を受けながらカッコつけて言ってみる。
するとどうだ……
ブルグンがキョトン顏でこちらを見る。
ムカつくんだよ!!
だから、お前のキョトン顏なんか見たくねぇ!
キョトン顏すんな!!
「さっきの船長は、あの貿易船の出資者達に雇われてるんでさぁ……」
「……」
「……だから、あの船長は陸に戻ったら、出資者達から厳しい制裁を受けるんですよ。それこそ、船と一緒に沈んじまった方が良かったと思えるような……」
後味悪いわっ!!
いらん情報を後から入れてくんな!!
俺は嫌な気分のまま、とにかくスマホを開く。先程の海賊行為でいくら儲かったか気になったからだ。
なっ!なにぃ!!
凄い!!ピース・オブ・エイトが「200」ぐらい増えている。
たったあれだけの事で!?
追っかけて!奇声を発して!乗り込んだだけだ!!
ベルンなんか柱の陰に隠れただけだ!!
それで「200」だと!?牛が百頭買えてしまうんだぞ!?たぶん、これは分配後の金額だから、俺一人でピース・オブ・エイトが「200」も増えてる……
俺がホクホクしていると、見張りの船員から、また船を発見したとの連絡を受けた。
金が増えたのは嬉しいが戦闘無しの為、ストレスの溜まった俺はすぐにそれを追うように言う。
するとなんと!発見した船はこちらに向かってくるというのだ!
ブルグンは仲間に指示を出してジョリー・ロジャーを掲げるように言う。
こちらはいつもはジョリー・ロジャーと呼ばれる海賊旗は掲げていない。
そんな物をチラつかせて航行をしようものなら、それを発見した普通の船が慌てて逃げ出すからだ。
さっき貿易船を降伏させた時も、ギリギリまではジョリー・ロジャーを掲げずに近づき、ある程度近づいてから突然旗を掲げて、相手を驚かせていた。
「なに?こっちはジョリー・ロジャーを掲げたというのに、こちらに向かって来るのか?」
ブルグンが子分の報告にびっくりして言う。
「どういう事だ?ブルグン」
俺はブルグンに聞いた。
「あちらも海賊のようですね」
ブルグンが困った顔で言うが、ストレスの溜まっている俺にとっては好都合だ!得意の「オーバー・ヒート」でぶっ飛ばしてやる!!
「ジークさん、逃げましょう。こちらの方が船の性能がいい。簡単に逃げられる」
なんでだよ!!なんで逃げるんだよ!!
俺が見た感じ、向かってくる船は、そう大きな船では無い。お互いに同じぐらいの人数であれば、俺は負ける気がしない。
こちらにはベルンもいる。そして俺には「オーバー・ヒート」もある。
「相手が海賊じゃ、こちらも被害を受けちまいます。そして儲けも少ない。踏んだり蹴ったりでさ」
ブルグンはしかめ面でいう。
いいぞ、ブルグン。お前にはそういう顔がよく似合う。
「いいや、ブルグン!そこらの海賊なんぞ、この不死身の海賊ジークにとって恐るるに足らずだ!」
「そんな……」
「蹴散らすぞ」
俺の命令により、俺たちはこちらを狙ってきた海賊と戦う事となる!!