獲物発見!!
不死身の海賊ジークの伝説が今始まろうとしている……
……と思いたい!!
仲間集めを終えた俺は新しい船員と共にイースラントを出港した。ここ数日の仲間集めは俺の想像以上に大変だった。
そして今の俺は、新しい船員達が操船の為に甲板の上を行ったり来たりしているのを眺めている。
その中には大型ルーキーのカナエもいる。数日間に及ぶ仲間集めで、結局モノになりそうなのは奴一人だ。
俺は船の船首に立ち、風に吹かれながら数日前の事を思い出していた。
素晴らしい!!つまりは俺の勇名を聞いてやって来たのだな。こいつは!
「あなたがジークさんですか?」
カナエはそういうとニコニコと笑顔で俺を見た。
「いかにもそうだが……」
俺はカッコつけて言ってみる。
「いや、すごいですね。あの海の悪魔パウル・ハウゼンを倒すなんて信じられらない」
カナエは尊敬の眼差しで俺を見ながら言う。
「ぜひ、私を子分にし……なっ!?」
カナエがいきなり叫ぶ!?なんだ、どうした!?
カナエは驚愕の表情で、ある一点を見つめている。
どうした?今までの礼儀正しく紳士的な態度はどこいった?
カナエの視線の先を見ると……そこには、俺達の様子を見に来たベルンが立っている……
「……ジークさん、仲間集めの方は順調ですか?」
ベルンはこの場の雰囲気が少しおかしい事に戸惑ったようだが、とりあえず俺に聞いて来る。
「今、ちょうど仲間になりたいという奴が二人来てるんだよ」
二人と言うのは、先ほどのオドオドしたおっさんと、カナエの事である。
俺はベルンにそう答えて、カナエに聞く。
「どうした?いきなりビックリして、ベルンがどうかしたのか?」
「……」
カナエは少しボンヤリと考え事をしている。
「おい、カナエ?」
「えっ?ああ?すいません……あ、あまりに可愛い顔なんで、ビックリして……女の子がジークさんのお仲間なのかと思いまして……」
な、なにぃ!?
そうか?そういうことか!?俺はなぜ気付かなかった!?
女を仲間にすればいいではないか?不死身の海賊ジークと女海賊!素晴らしい!
「よーし、ブルグン!!このまま仲間が集まらないようなら、女を仲間に加え……」
「却下です」
ブルグンは即座に言う。
「なんでぇ!?」
「争いの種になりますんで、船に女は乗せない!そういう決まりです」
なんだよ!!そのしょーもない決まりは!?誰が作ったんだよ!!俺が船長なんだから!俺が決まりだろうが!?違うのか?
「仲間になりたいというのは、このお二人ですか?」
ベルンが、オドオドしたおっさんと、カナエを見て言う。
「そうだ」
カナエはボーッとした目でベルンを見つめている。
ビッー!!ビッー!!
緊急警報発令!緊急警報発令!
俺の中で警報が高々に鳴り響く!!
なんだ?どうした?カナエ!!大丈夫か?
なんだ?その目は!?
だっ・かっ・らっ!!
【海賊GAME】よ!それだけはやっちゃなんねぇと言ってるだろうがよ!!
まかり間違っても路線をポーイズ・ラブには持って行くなよ!!
もし、そんな方向に走ったら俺は金輪際、【海賊GAME】をしない!!
分かったかっ!?
「シャムシールを使うんですね」
ベルンはカナエの武器を見て言う。
「あっ、はい。そうです。愛用の武器です」
「二人で勝負してみるか?」
カナエの剣の腕前を知りたい俺は、ベルンと戦ってみるように言う。
「いえ、とんでもありません。かなう訳がないですよ」
カナエは両手を振りながら言う。
まあ、この世にそうそうベルンに勝てる奴はいないだろう。ベルンに手加減はさせるつもりであったが、無理に戦わせる事は無い。
「なんだ?お前……ジークさんが、ベルンと手合わせしろと言っているのに断るのか?」
最初が大事とでも思っているのか、ブルグンがカナエに凄みながら言う。
「よし、採用!!」
「はや!!どっちみち仲間にするんじゃないですかっ!?」
「そっちの少しオドオドしたおっさんも採用!」
「なんでもいいんじゃないですか」
……というような具合であった。
選ばなければ、それなりに人も集まり、不死身の海賊ジーク一味は総勢五十名程となった。
しかし、俺には不安がある……
……カナエだ。
気のせいかもしれないが、カナエがチラチラとベルンを見ているような気がするのだ。
ほらっ!?今もチラリと見たっ!!
ダメだってっっ!!
ホント!!絶対ダメ!!
【海賊GAME】!!そっち系なファンを取り込もうとするなぁっ!!
凛々しくハンサムなカナエと可愛いベルンの海賊ボーイズ・ラブ……
いや、誰も望んでないから!!
そういうのが好きな女は最初からこんなゲームやらないだろ!!
手を広げすぎだ!!馬鹿者!!
俺が悩んでいると横にいたブルグンが言う。
「ジークさん、右舷の方向に船を発見しました」
なにぃ。早速、獲物か!!
「よし、行くぞ。ブルグン!!」
ウゲン?右?右か?
よし、アレを言うか?アレを言うしかないな?
二つに一つの確率だ!!
外れたとしても「逆じゃねえか!?」という楽しい突っ込みが入るだけ!!
右、右。
俺は息を大きく吸い込み大声で言う!!
「面舵っ!!一杯っー!!」
「……」
「……」
なんだ?なぜ、誰も反応しない?なんだ?この空気は?やはりオモカジではなくて「取り舵一杯」だったか?
「ブルグンどうした?」
俺はドキドキしながら聞いてみる。
「……えっ!えっーと……お、オモカジ?って何ですか?」
なっ!!何でだよ!!お前ら船乗りじゃ無いのかよ!!
なんで、船乗りが面舵を知らねえんだ!!
映画やテレビなんかでは、絶対に船長は「オモカジイッパイ」って言ってるだろ!そして船を操縦する奴が丸いのクルクルやってるじゃねえかっ!!
そんなんなら、もう、止めろよ!!【海賊GAME】をよ!!面舵を知らないならゲームに船なんか出すな!!
【男子校秘密サロンでの黄昏GAME】とかにしろよ!!
ブルグンは俺の内心の葛藤を無視して言う。
「ハード・ア・スティアボード!!」
なんだ、そりゃ?
それが船の進行方向を変える掛け声か?
それはリアルを追求した結果なのか?それともベルンを出した時みたいにお遊びの結果がそうなったのか、どっちだ!?
グッ、グッグッ、グググッ!!
うお?本当に変わりやがった!じゃあ、やっぱりさっきのが船の進行方向を変える掛け声なのか……
何か、俺には納得いかないものがあったが、今はそれどころでは無い!!
今から獲物を捕獲しなければいけない!!
不死身の海賊ジークの初海賊行為だ!!
「よーし、者共!!行くぞっ!!」