海賊募集します
なんだ?
想像と違うぞ!?
皆、かっこいい海賊に憧れるんじゃねえのか?
俺は横に座るブルグンに怒鳴る!!
「ブルグン!なぜ、誰も来ない!?」
「へっ?」
へっ?じゃないだろ!!不死身の海賊ジークが仲間を集っているんじゃねえのか?
俺は酒場の一角にブルグンと陣取っている。店には大金を握らせているので、とくに文句は言われない。
しかし、誰も来ないのだ……
「本当にあいつら仲間を探しに行ってるのか?」
あいつらとは、パウルとの戦いで生き残ったブルグンの子分達だ。
その子分達が今日ここで、不死身の海賊ジークが仲間を集っている事を話して回っているはずなのだ。
「まさか、昨日あれだけ遊んどいて、今日も遊び呆けているんじゃないだろうなぁ?」
俺は昨日ブルグン達だけ、あの綺麗なお姉様方といい思いをした事を根に持っている。
「そいつは大丈夫でさぁ。あいつらもう遊ぶような金は持っていません」
「そうか……って何ぃ!?」
なんだと?あいつら、昨日一晩であれだけの大金を使ったのか?
一人、200ピース・オブ・エイト近くは持っていたはずだろ!?
まだピース・オブ・エイトの単位や、このゲーム世界の物価がよく分からないが、昨日ベルンにさりげなく聞いたのだ。
ベルンは、なぜそのような事を聞くのだろうという不思議そうな顔をしたが、いろいろと教えてくれた。
どうも1ピース・オブ・エイトは牛が半頭ぐらい買えるお金らしい。つまり2ピース・オブ・エイトで牛一頭だ!
逆にこの世界では牛一頭の価値が安いのかもしれんが、200ピース・オブ・エイトは牛が100頭買えるのだぞ!!
あいつら一晩で牛が100頭買えるほど遊んだのか?
牛100頭分の遊びってどんなだ!?
「おっ、来ましたぜ!?」
ブルグンが言う。どうもブルグンの子分が新しい仲間を連れて来たようだ……
……連れて来たようだ。
ど……どうしてだ?想像と違う……
海賊を志す者は普通、もっと屈強だろう!?
なんかひ弱そうなのが来たぞ!!それにオドオドしてる!!
俺の目の前に現れたのはオドオドしたおっさんだった……
「なかなか使えそうじゃ無いですか?」
な、なにぃっ!?
ブルグンがとんでも無い事を言いやがった……
俺は夢でも見てるのか!?いや、このゲーム自体、夢の中でプレイするもんなんだが……
「本気か、ブルグン?」
俺は真剣に聞く。
するとブルグンはキョトン顔だ。
なんでだよっ!?なんで、お前がキョトン顔なんだ!!普通、こっちがキョトン顔だろうが!?それにお前のキョトン顔なんか見たくねえよ!!
お前と話してたら頭がおかしくなっちまうよ!!
「だって、こいつぁ自分から海賊になりたいと志願してるんですよ!!」
「……」
「普通無いでしょう?」
ブルグン……お前という男はどれだけ俺を惑わせるんだ……
俺はめまいで地面が揺らぐのを感じる!!
普通は自分から海賊になりたいとは思わない?
どういう事だ!?
「ブルグンッー!!」
俺は怒鳴る!!
普通は海賊になりたく無いとはどういう事だ!俺はブルグンに問いただした!
すると、あろう事か……危険極まりない海賊という職業は、誰もなりたがらないと言いだした。
海賊になるなんて、奴隷階級の者が今よりひどい生活は無いと思い、脱走して海賊の仲間になるか、貧困の為に食うに困った荒くれ者がなるそうだ…………はっはー!なんだ、そりゃ!?楽しいったりゃありゃしない!!
「……だから、人が集まらない時は俺ら町から、使えそうな若いのをさらって来るんですよ。いつ……」
やめてくれー!!もう勘弁してくれ!!
「……だから、海賊を始める者も、やるのは一回、一回の航海で出来るだけ金をかき集めて、死なずに戻って来れたら御の字で、金持って海賊やめる奴も多い……」
「……頼む、喋るな、ブルグン。一度静かにしてくれ」
なんだよ!それ!!この【海賊GAME】が根底から崩れるだろうがっ!!
そんな皆から嫌われる職業をゲームにするなぁっ!!
普通、ゲームの主人公は皆の憧れの的だろうがぁ!?
そうだ!勇者とか!!
皆「勇者様」とか、ゲームの中でも子供が「勇者様みたいになりたい」とか言ってるじゃねえか!!
誰もなり手が無いから、無理やりさらってくるなんて聞いたことがないわ!!
今までのゲームで……誰もなりたがらないから、どっからかさらってきた人間に無理やり勇者をやらせるなんてゲームがあったか!?
今から名前を【海賊GAME】から【海の勇者GAME】に変えろよ!!そんな皆から忌み嫌われる職業のゲームなんかしたくないわっ!!
今の俺には、そんな人々から忌み嫌われる職業と言うのがパッとは思いつかないが、ドブをさらって掃除をする職業があったとして、皆がその職業を嫌っているとしよう……この【海賊GAME】はそういう職業を題材にしてる訳だぞ!!言うなれば【ドブさらいGAME】だ!!
……へ、へ、へ、この論法には少し無理があったな……俺は自嘲的に笑う。
こんな所で待っていても時間の無駄だと思い、俺は昨日遊べなかった分、今日遊ぼうとこの場を立ち去ろうとすると……
「新しいのが来ましたぜ」
俺は仕方なくそちらを見る。今度はハゲたおっさんでも来たかと思えば……
スラリと逞しい若い男性だ!!若いといっても俺より十は年上だろう。
背中にはでっかい剣を背負っている!!
ぬははははっ!!
俺はその逞しい男を見て笑う。
知っているぞ!!俺は知っている!
あの剣は!!あの剣はカトラスでは……無い!!!!
つまりこの男は特別なキャラだ!!
こういうゲームで、その他大勢とは違う武器を持つ!!
それはこいつがザコキャラではない事を意味している!!
それが証拠に最強キャラに近いベルンは、レイピアという一人かっこいい武器を持っている。
「ここに来れば、あの海賊ジークさんのお仲間にして頂けると聞いたのですが……」
その特別キャラは言った。
「ああ?そうだ。お前、ジークさんの仲間になりたいのか?」
「はい、ぜひ」
特別キャラは礼儀正しく言う。
「よし、採用!!」
俺は即座に言った。
「ちょっと待って下さいよ。適正とか見ないんですか?」
ブルグンは俺に言うが……
「いや、顔が凛々しいから見なくて良い」
必要無いだろ!そんなの!この【海賊GAME】の手の内は読めている!
超ハンサムなベルンを出して、そいつはめちゃくちゃな強さだ!!女の子のハートを鷲掴みだろう!!
しかしベルンは可愛い系だ!中には可愛い系は、ちょっと……という女性もいるかもしれない。
そこに出てきたのがこの凛々しいハンサムな男だ!!弱い訳が無い!!
「お前、名前は?」
俺は試しに聞いてみる。
「カナエです」
ビンゴッー!!
ハンサムでその他大勢とは違う武器で、少し変わった名前!!
来た!来た!来たっー!!
「よし、仲間にしてやる」
「はやっ!!」
ブルグンが俺の俊敏な判断を突っ込む!!
「ジークさん、もうちょっとなんか無いんですか?」
そんなものは無いわ!!
しかし、そうまで言われると俺も何か聞かなければいけない気分になる。
「どこで俺を知った?なぜ俺の仲間になりたいんだ?」
俺が聞くとカナエはニコリと笑う。
「あの海の悪魔、パウル・ハウゼンを破ったと聞いて……これはもう仲間にして頂きたくて馳せ参じました」
「……」