可愛すぎる少年ベルン
うん?ここは?
俺はどうした?眠ってたのか?
はっ!?けしからんチチ達は?
俺が身体を横にしたまま、周りをキョロキョロしていると……
「みんな行っちゃいましたよ」
えっ?頭上で声がする。この声は?
「ベルン?」
俺が声をする方を見るとベルンがでかい扇のような物で俺をあおいでくれていた。
ベルン自身は肩に包帯を巻いて、その包帯からは血が滲み出している。
申し訳ないと思い、俺が身体を起こそうとすると……
つぅっ!!
凄い頭痛だ!!
それに気持ち悪くて吐きそうだ!!
「まだ起きない方がいいですよ。飲み過ぎです」
ベルンはクスクス笑いながら言う。
「みんなは?」
「あなたをここに運んできて、どっかに行っちゃいました」
あいつら、女達とどっかに行ったな……
くそっ!!俺はこの大事な時に何てことだ!?
惜しいことをした……
あんな綺麗なお姉さんと可愛いお姉さんを目の前にして、酔い潰れるとは……
今からでも遅くは無い!!
うっぷっ!!
俺は身体を起こそうとするが、すぐに吐き気にやられる!!
「くす、くす、まるで別人ですね。とてもあんな強い人には見えない」
ベルンは扇で俺に気持ち良い風を送りながら言う。
まさか、俺が酔っ払って眠りこけている間、ずっと仰いでいてくれたのか?自分は肩に重傷を負っているというのに……
「ベルン。もうあおがなくていいぞ」
俺は言う。するとベルンは素直にあおぐのを止めた。
「お前は遊びに行かないのか?」
「今は傷がひどいのでお酒とかはちょっと……」
そうか?そうだよな?肩に重傷を負っているのに酒は身体に悪いだろう。
ブルグンは重傷を負った身体で大量のお酒を飲んでいたが……
「……あの時は助けてくれてありがとうございます」
ベルンが突然言う。
俺がパウルに撃たれたベルンを助けた時の事を言っているのか?
「いや、いい。あんな奴に撃ち殺されて死んだらもったいない」
「……」
「長い船上の生活はストレスがたまると聞いている。お前も遊びたいだろ?」
「はあ」
「俺の事はもういいから、行っていいぞ」
「お邪魔なら……一人がゆっくり出来るのなら、どっかに行きますが?」
うーん、気ぃ使いな奴なのか?
「いや、別にどっちでもいい」
「では、もう少しここにいますね」
俺がパウルを倒した後、船長の敵討ちをしようと俺を殺そうとしたパウルの子分達がいる。しかしパウルに心服しておらず俺の敵には回らずに、結果ベルンと共に俺についてきた奴らもいる。
「仲間とどっかで羽根を伸ばさないのか?」
「僕も賭け事とかなら少しはするんですが、今日はみんなは……その女性と遊びたい日だったみたいで……」
な、なんだとぉ!?ではなぜ、お前は一緒に着いて行かない!!
嫌な予感がする!!
【海賊GAME】よ!!それだけは駄目だ!!絶対やっちゃなんねぇ!!
もしかしたらボーイズ・ラブかぁっ!?
俺はドキドキしながら聞く。
「べ、べ、ベッルンは……その……女とは遊ばないのか?」
頼む!!
「僕も、その……好きは好きですが……ああいう女の人達って少し強引でしょ?」
ベルンは顔を真っ赤にして言う。
そうか、そういう事か。顔がハンサム過ぎるから、狙われちゃうのか、ボクちゃんは……
そりゃ、そうだ。俺が女だったとしても……100ピース・オブ・エイトをもらってブルグンの相手を一晩するか、3ピース・オブ・エイトをもらってベルンの相手をするか選べと言われたら……ベルンを選ぶかもしれない……
あのブルグンの容姿だけは……どうしても生理的に無理だ。
俺は女では無いから分からないが、ベルンぐらいハンサムであれば、逆にお金が取れそうだな。
「そうか?そうだな。ベルンはハンサムだから女達も積極的かもな」
俺は適当に言う。どうにも酔いの為に気持ち悪い。
「……なんで、あなたはそんなに強いんですか?」
ベルンが俺に聞いてきた。
「えっ?」
どうして強いか?うーん、だってゲームの裏技のようなものだ。理由など無い。
うーむ……
「理由など無い。我の強さに理由など無いぞ!ベルン」
俺は厳かに言ってみる。
「強さに理由など必要ない。強さは意志……想い……願い!誰かを守りたい。何かを成し遂げたい。これだけは譲れない……」
「……」
「……強さとはそういった意志だ。身体の鍛練だけで備わるものではない……」
言っている意味は俺にも分からないが、ベルンは何やら感動している。
「……だから、我の強さに理由などは無いのだ」
「さすがです!ジークさん」
ベルンは感動した口調で言う。
こういう内容の事を喜びそうな奴だとは思ったが……こうまで感動するとは……
今更ながら言うがベルンは若い。下手をすると俺よりも歳下では無いかと思う。
よくもまあ、そんな歳で悪魔のパウル一味のナンバー2になったものだ。
強さが並外れていたのだろう。
逆に俺の方が聞きたい。なぜ、そんなに強いのか?そしてハンサムなのかを!
どうせ動けん。
仕方ないので俺はベルンを話し相手に一晩を過ごす事にした。
明日の予定を聞くと、我が海賊ジークと愉快な仲間達は、新メンバーを募集するということだ。
パウルから奪い取った船は、中型のスループ船というものだそうで。
海賊行為を行うなら、その船に少しでもたくさんの船員を乗せて、他の船に攻め込んだ方が良い。
それには、今の人数では少ないらしい。
ちなみに今は、ブルグンとブルグンの子分達が十名程度。それとパウル勢の生き残りで、ベルンに着いて来た者が十名程度だ。
あの奴隷部屋にいた者達は、大変俺に感謝はしていたが、海賊になるつもりは無いらしく、皆何処かに行ってしまった。あの奴隷部屋にいた者で残ったのはムンク一人であった。
つまり、俺達は二十数名しかいない。
それでは少ないそうだ。
その為、明日の夜に酒場や博打場など荒くれ者が集まりそうな場所で声をかけて、仲間を集うらしい。
これで俺にはこのゲームの流れが少し読めて来た。
ゲームの流れは「海賊行為による金品略奪」→「金品を貯める」→「仲間に分配」→「陸の上で豪遊」→「海賊行為による金品略奪」の繰り返しであろう。
強奪した金品を仲間に分配しなければいけないという事は仲間は少ない方が好ましい。
しかし、海賊行為を成功させる為にはそれなりの戦力がいる。
つまりどれだけ少ない人数で強い仲間を集められるかがゲームを進める鍵になるのだ。
明日の仲間探しは、今後の【海賊GAME】の行方を大きく左右するかもしれない。
俺はそう思いながら、今日の所は眠る事にした……